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「反省することばかりなんです」栗山英樹監督は“無私の人”だった…記者が明かす知られざる素顔「選手たちに余計な苦労を一切かけたくない」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/13 11:04
WBC優勝後の3月27日、日本記者クラブの会見で大会を振り返る栗山英樹監督。侍ジャパンを世界一に導いた「信じ抜く采配」のルーツとは
話をしながら、自己反省の言葉を何度も口にする。自分を甘やかさない。
「プロ野球は勝負の世界で、監督は大変な仕事と言われがちです。でも、そうじゃないんですよね。好きな野球に携わらせてもらっている僕の場合、『人のお世話をするよう』というのは全力で選手に尽くしなさい、ということだと思うんです。人間としての原点に引き戻されるというか……」
「それが正解でも間違いでも、きちんとした理由を」
後藤新平の「むくいを求めぬよう」という教えを読み解きながら、栗山監督の頭には異なる言葉が思い浮かぶ。そうやって複数の金言や名言を結びつけていくことで、自分の行動をより深く見つめていくのだ。
「東芝の再建に取り組んだ土光敏夫さんは、『自分は聞いていない』と『誰かがやってくれるだろう』、このふたつの言葉を追放しようと言いました。たとえば、チームの成績が出ていないときに、同じことをやっていてはダメだと判断してそれまでのものを壊すか。逆に、いまは結果が出ていないけれど、我慢すればいいものに変わっていく、平凡が非凡になると信じるか。ふたつのどちらかを判断するときに、コーチ陣が必要な情報をくれないとか、選手が答えを出してくれるだろうとかいったことを、考えてはいけないと思うんです。誰かの手助けをするけれどむくいを求めないということは、組織はどうあるべきなのかと自分自身がどうあるべきかを、同時に意識することだと思えるんですね」
様々なジャンルの先達が残した言葉が、メモを見ることもなくスラスラと出てくる。気になった言葉を大判のノートに書き出し、何度も読み返しているからだ。読み終えた本をもう一度、二度と開くこともある。そうやって心に刻んでいくことで、人生訓と野球が親和性を高めていくのだ。
「監督という仕事をしていて、采配とか選手起用について聞かれたときに、ちゃんと説明できるようにしています。そこに私利私欲は入っていないし、ひとつの負けよりこの選手を生かすためとか、絶対にこの選手は変われると思って使ったとか、練習を見てこの選手に賭けていいと思ったとか、そういうことです。それが正解でも間違いでも、そこにきちんとした理由を持っていたいんです」