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核心にシュートを!BACK NUMBER
なぜ長谷部誠39歳は「引退確率99%」から“欧州17年目の現役”を選んだか…「悔しさの中に喜びがあった」心に火をつけた“CL出番なし”
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byYusuke Mimura
posted2023/04/12 17:20
3月の長谷部誠の会見。現役続行とフランクフルトでの日本のスクール事業についての発表だった
現役を続けたくても必要とされない選手や、クラブに残留したくても許されない選手が五万といるなかで、長谷部の勝ち取った立場は突出している。クレシェGMは言う。
「長谷部選手はプロとしてのパフォーマンスを発揮できないと判断したときには、自らそれを感じ取り、キャリアを終わらせることができる能力とプロフェッショナリズムを備えています。
だから、長谷部選手には『自ら引退を決められる』という特権を与えていますが、他の選手にそのようなものを与えるつもりはありません」
長谷部が現役を続けると決めた最大の理由は…
そんな長谷部の心を現役続行へ向けて突き動かしたのは、「○試合出場」や「△得点」という数字で表せるものではない。かつて経験したドイツの老舗スポーツ誌『キッカー』のベストイレブン選出(*2018-19シーズン)や、リーグ優勝(2008-09シーズンのボルフスブルク)のような、目に見える目標でもなかった。
むしろ、目に見えないものが彼の心を現役続行へと向かわせた。
長谷部が現役を続けると決めた最大の理由は「楽しさ」だった。
「一番は、プレーすることが楽しいからです。(39歳になった今でも)20歳前後の選手たちとポジション争いをしていますから。チームと同じように『若い選手をどんどん成長させたい。出てきてほしい』という思いは僕自身にもありますけど、そこで競争する楽しさを日々、感じているんです」
英語で言えば「play」、ドイツ語では「spielen」。スポーツをプレーするという言葉には「遊ぶ」という意味が含まれている。長谷部が楽しさを現役続行の最大の理由に挙げるのは、スポーツの本質を見すえているからだろう。“楽しくない遊び”をしようと思う人などいない。楽しさこそがサッカーを始めたときの原点であるし、ともすれば同じことの繰り返しと感じてしまいそうなプロ生活に『彩り』を与えてくれるものだった。
ただ、それだけではない。引退に傾く可能性の大きかった心を奮起させた要因の一つとなったのが、『悔しさ』だった。その『悔しさ』のとらえかたがなんとも長谷部らしかった。
13年ぶりのCLと、ボルフスブルク時代の宿題
今シーズンの長谷部は13年ぶりにCLに出場した。一度CLに出られるようなクラブにいた選手が、13年もの時をへて、再び世界最高峰の舞台に返り咲くなんてお伽話みたいだ。本人も「宝くじにあたったみたい」な気分だと振り返っており、CLの舞台に再び立てるとは想像すらしていなかった。
今から13年前。グループリーグ最終戦を前に、グループ2位に立っており、自力でグループリーグ突破を決められる状況で長谷部のボルフスブルクはホームゲームを迎えた。しかし、試合に敗れ、決勝トーナメント進出を逃した長谷部は失望の色を隠さなかった。