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核心にシュートを!BACK NUMBER
なぜ長谷部誠39歳は「引退確率99%」から“欧州17年目の現役”を選んだか…「悔しさの中に喜びがあった」心に火をつけた“CL出番なし”
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byYusuke Mimura
posted2023/04/12 17:20
3月の長谷部誠の会見。現役続行とフランクフルトでの日本のスクール事業についての発表だった
「自分は『もっと』この舞台に立ちたいんだ、『もっと』上手くなりたいんだ、このチームで大きなことを成し遂げたいんだ、と改めて思ったので。そこは1つ、大きなところではありました」
かつて長谷部が試合前に必ず聞いていたMr.Childrenの『終わりなき旅』に歌われていたような想いが、長谷部を突き動かしたのだ。
「『(2022-23シーズンをもって)99%引退する』という話をしていたんですけどね……。(シーズン途中に40歳を迎える来シーズンで引退する確率が)『99.9%』くらいに上がったとは思います。だけど、現役である今を楽しんで、サッカーを楽しんで、やっていきたいと思っています」
本人がそう話したということは、来シーズンでユニフォームを脱ぐ確率は、体感としては0.9%という上昇分以上に高まったと考えていいだろう。
「ピッチの上で、より重要な選手になる」
今シーズンにしても、怪我で欠場した時期とケルン戦後の数試合をのぞけば順当に主力として活躍している。一方で、シーズンの早い時期に十分なチャンスを得られたのはチームの特殊な状況にも助けられた。昨シーズンまでのディフェンスリーダーで、リベロもこなせるヒンターエッガーが29歳だった昨シーズン終了後に急きょ引退を決めたからだ。ヒンターエッガーの引退と長谷部のパフォーマンスに直接の関係はないが、彼が引退していなければ長谷部にチャンスがまわって来るタイミングがもっと後になった可能性はある。39歳を迎えてなお、これほどまで重宝された最大の理由は長谷部自身の努力にほかならないが、巡り合わせの良さが今シーズンの活躍に花を添えたと考えるのは大げさではない。
ただ、「サッカーの楽しさがなくなったらすぐにスパイクを脱ぐ」と長谷部は語るように、ラストイヤーになる可能性の高い来シーズンも、若いころと同じようにしっかりと目標を掲げて挑むことに変わりはない。
「自分が今シーズン、そして来シーズン、どういう選手になりたいのかといえば、ピッチの上で、より重要な選手になるというところにフォーカスしていきたいなと思います。
例えば『チームが上手くいかなくなったときに、自分が試合に出て、チームを良くする』。それだけでもすごく価値があると思います。だから、ピッチの上で、自分の価値を示したいです」
とても明確でありながらも、『チームを良くする』という目標自体は決して目に見えない。
ただ、目に見えないからこそ、『もっともっと』とそこを目指して努力を続けている。そういう目標設定をさらりとしてみせるところに、ヨーロッパでの16シーズン目を戦っている長谷部の強さは潜んでいるのだ。
「17」度目の欧州でのシーズンに向けて
来シーズンは、長谷部が日本代表で長年大切に背負ってきた、自身も気に入っている番号と同じ『17』度目のヨーロッパのシーズンとなる。もちろん、来シーズンがラストイヤーにならない可能性が0.1%はあるものの、そう遠くないうちに引退する日は来る。およそすべての選手がそうであるように、長谷部が見せてきたプレーもいつかは人々の記憶から消えてしまう。でも、それを忘れないために、これからの長谷部の一挙手一投足に注目して見なければいけない。そこにも、日本人と日本サッカーの可能性が眠っているからだ。
これに続く後編では、そんな長谷部と同じように、目には見えない目標をかかげる田中碧の今について取り上げる。
<#2「田中碧」編につづく>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。