ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
前田日明「殺されても仕方がないのが真剣勝負」ヴォルク・ハン、“ソ連軍隊格闘術の使い手”だった男はなぜプロのリングで輝いたか?
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph bySusumu Nagao
posted2023/03/31 11:02
前田日明に発掘され、1991年にリングスデビューを飾ったヴォルク・ハンは“ダゲスタン出身のサンビスト”の先駆けだった
「生まれながらの戦闘民族ですよ」
前田 ダゲスタンに行って驚いたのは、たとえば2階か3階建ての建物があって1階にはパーティ会場がある。そこでパーティやって最後は音楽をかけてみんなで盛り上がって踊り始めるんだけど、そのうちトカレフを抜いて天井に向かってパンパン撃ちながら踊ってるんだよ。
――発砲しながら踊るんですか!?
前田 ホントだよ。上に人が住んでるのにだよ。だからハンが生まれ育ったダゲスタンの山の中腹……中腹といってもそこで標高4000メートルくらいのところなんだけど。ダゲスタンの首都から車で行ったら3日くらいかかるところだから、俺は軍事用ヘリコプターで行ったからね。もう山地とか山脈とかっていうレベルじゃないんだよ。ところどころに谷がある大きい山のかたまりなんですよ。
だからあの辺の人たちは高地の民族で、しかも地理的にアジアとヨーロッパと中東が境界線でせめぎあって、アレクサンダー大王の時代からずっと戦闘していたところなんだよね。だからアイツらは強いんだよ。生まれながらの戦闘民族ですよ。
――ダゲスタンの選手たちの強さには、そういった地理的状況や歴史のバックボーンがあるわけですね。
ダゲスタンには“前田の家”がある?
前田 今になってみんなヌルマゴメドフたちが強いって言ってるけど、俺に言わせれば当然だなって。そういえば俺、ダゲスタンに家を1軒持ってるからね。
――えっ、それは別荘的な感じですか?
前田 ハンの故郷に行った時に寄付とかしたら、共産党の女書記長に「あなたはこの村に貢献してくれた」って言われて、家を1軒もらったんだよ。その家の鍵をハンに持たせてたんだけど、数年前、引退試合でハンが船木(誠勝)とやった時(2012年12月16日、横浜文化体育館)、ハンに「あの家、まだあるんか?」って聞いたら、「ある」って言ってたよ(笑)。「あの家は俺のもんなのか?」って聞いたら、「そうだよ。だから来いよ」って言うんだけど、そんなの行けねえじゃん。
――しょっちゅう軍用ヘリを使うわけにいかないですもんね(笑)。
前田 でも、いちおうダゲスタンに家があるから、いつかまた行けたらいいけどね。《つづく》
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