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「日本のプロ野球を…なめるなよ…」WBCは“世界甲子園”だ…大谷翔平もヌートバーもスゴいけど、“NPBファンが喜んだ”巨人4番・岡本和真の3ラン
posted2023/03/18 17:00
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
AFLO
大谷翔平の164キロ、ヌートバーのバックホーム、ダルビッシュのリリーフ登板。
そのすべてに対して、東京ドームの41,723人の大観衆から地鳴りのような拍手と歓声が送られた。グラウンドの熱は、やがて客席へと伝わる。あの大谷が一球投げるごとに咆哮し、打席ではなんとか塁に出ようとセーフティバントを試みる。それだけ重要な負けたら終わりのWBC準々決勝のイタリア戦……のはずなのに、5点リードした試合中盤あたりから球場に充満していたのは、勝負論や緊張感よりも、高揚感と多幸感である。
本当に大谷の二刀流を生で体験できている、36歳のダルビッシュの投球が日本で目撃できる、あれが噂のペッパーミルパフォーマンスか……なんて、エンゼルスの大谷Tシャツ姿の少年も会社帰りのお姉さんも笑顔で真似をする3月16日夜9時半の東京ドーム。ヌートバー……いや“たっちゃん”、オラと一緒につえーヤツ倒さねえか。ってそこにあるのは昨日までのライバルが仲間になり頂点を目指す、チームの垣根を越えた「友情・努力・勝利」のみんな大好き少年ジャンプイズムに近い。
これまでは「世界甲子園」の中堅校だった
これまでの侍ジャパンには、どこか悲壮感とか切実さがあった。イチローと松坂大輔を中心に2連覇はしたものの、第3回以降は世界的なビッグネームもいなくなり、スモールベースボールで「世界甲子園」に挑む中堅校といった雰囲気だった。だが、今回は違う。大会前のダルビッシュが口にした「気負いすぎというか、戦争に行くわけではない」発言から始まり、大谷翔平という世界最高峰の「個の力」を擁する優勝候補筆頭の強豪校のような戦い方だ。過去大会の日本代表は第1ラウンドで韓国(06年・09年)やキューバ(13年)に負けたり、第2ラウンドで台湾(13年)やオランダ(17年)との死闘があったりと接戦に苦しみながらギリギリで勝ち進んでいたが、今大会のように全試合6点差以上つけて大勝続きのままアメリカでの準決勝へ……というケースは初めてである。
だからなのか、これまで以上にファンも余裕を持って、純粋に野球を堪能しているように思える。大谷翔平という球史に残るプレーヤーを28歳の絶頂期に日本で見ることができる喜び。東京ドームでは自身が出演するCMが場内に流れる中、黙々とアップをする背番号16の姿。観客はその一挙手一投足をスマホのカメラや双眼鏡で追った。09年大会のイチロー参加時は、多くの観客がワンセグ携帯のテレビ中継片手に観戦していたことを思えば、やはり野球は時代を映す鏡でもある。打撃練習での規格外の飛距離でスポーツ紙の一面を飾り、対戦相手すらも二刀流のサインを欲しがる圧倒的な存在感。例えば、サッカーW杯でアルゼンチンのリオネル・メッシに対して、相手チームの選手が試合中からサインとかユニフォームもらいたがっていたが、まさに東京ラウンドの大谷翔平はそういうレベルのスーパースターだった。