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「来年も投げると決めていた」金子千尋(39歳)はなぜ“コーチ転身”を決意したのか?〈山本由伸の覚醒、期待の若手ピッチャーも語る〉 

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田中大貴

田中大貴Daiki Tanaka

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photograph byTomosuke Imai

posted2023/01/30 17:00

「来年も投げると決めていた」金子千尋(39歳)はなぜ“コーチ転身”を決意したのか?〈山本由伸の覚醒、期待の若手ピッチャーも語る〉<Number Web> photograph by Tomosuke Imai

「引退試合をファンの皆さんの前でできなかったことが少し心残りです」と素直な心境を明かした金子千尋。コーチとして球界への恩返しを誓った

――2月からはMLBテキサス・レンジャースにコーチ留学すると伺いました。

金子 球団からは「自分のやりたいようにやってきてくれ」と言っていただきました。それはそれでプレッシャーがありますね……(笑)。

――現役時代からアメリカで自主トレを行い、シアトルのトレーニング施設「ドライブライン」にはいち早く足を運んでいましたね。やはりアメリカで学んだことは大きかった?

金子 たぶん、アメリカに行っていなかったらもっと早く引退したかもしれないし、今も投げられてないかもしれないですね。アメリカは全てを数字で出すんです。選手としてもその方がわかりやすいし、頑張れると思うんですよ。ここが弱い、ここが強い、ここをこうすれば球が速くなる、とか。どうしても日本はまだ感覚的な部分が多いので、納得しづらい側面もあると思う。そういうところはうまく活用したいです。

――コーチになってからも数字は大事にしたい?

金子 そういう時代ですから。でも、数字に囚われすぎてしまうことに怖さもある。ドライブラインには莫大なデータがあって、みんなそこに当てはめられたら、平均というか、どのピッチャーも同じ投げ方になってしまうんじゃないかと。

――全員が同じ球を投げるマシンのように「再現性」ばかりを求めてしまう。

金子 そうなると当然バッターは対応しやすくなりますよね。野球には数字に表れないものが絶対にある。ファイターズで言ったら、加藤(貴之)がいい例です。スピードはそこまでなくてもバッターは数字以上に速く感じているわけですから。アメリカの指導や研究は日本の先を行っていると思っていますが、それが全て正解だとは限らない。最先端の技術、コーチングを身につけた上で、日本人に合う部分を混ぜながら自分なりに整理して選手に届けたいなと思っています。

開幕戦でも「最後の登板」と思って投げる

――少し現役時代のことも振り返らせてください。以前の取材でおっしゃっていた「初回全力」という言葉が印象に残っています。

金子 初回というか、もっと言うと初球ですね。極端ですが、そこで一番いい球を投げるために、(ローテーションの)6日間があると思っていました。もちろん、試合の最後の球も大事。少し矛盾しますが、最初も最後も同じ球が投げられるようなトレーニング、コンディショニングが大事だと思うんです。

――試合の入り、そして最後の球の質が伴ったときは、いい結果が出ていた?

金子 たぶん、その時は「完封」していたと思います。いつもマウンドに上がる試合が常に“最後の登板”だと思っていました。たとえ開幕投手だったとしても、その後の試合のことは考えずに、まずは目の前の試合に臨む。バッターも本気なのに、こちらが次の試合のことを考えてボールを投げたら、その時点で負けだと思うんです。だから初球が大事。マウンドに立つ時は腕がちぎれるぐらい振る、すべてを出し切るという気持ちしかなかったです。

――やはり「完投」や「完封」にこだわりはある?

金子 先発や完投に特別なこだわりはないです。トヨタ自動車からプロの世界に入ってきた2、3年はほとんど中継ぎだったので、完封の「か」の字も考えたことがなかったぐらいですから。ただ、やっぱりピッチャーは試合の最後までマウンドにいたいもの。みんながマウンドに集まるあの場所にいたい。それを味わえるのは、完投、完封だけですよね。極端に言えば、そのために頑張るみたいな(笑)。

――となると、生涯ベストゲームも完投、完封した試合になるんでしょうか?

【次ページ】 「思い浮かぶのは悔しい試合ばかりで…」

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