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野球善哉BACK NUMBER
ダルビッシュ輩出の名門が激変していた…服装・練習を“高校球児が考えて”センバツ出場の東北 「それで技術は向上する?」に新監督の“驚きの答え”
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKatsuro Okazawa
posted2023/01/30 11:01
ダルビッシュ輩出の名門が激変していた。服装・練習を“高校球児が考えて”センバツ出場の東北を訪ねた(写真はイメージ)
とはいえ「技術」は伸びるのか?
練習でも、試合でも、選手たちは自分で考えることを自然に身につけていく。練習だけ考えさせても、試合で監督にコントロールされれば思考はストップする。その点、東北ナインは、常に自分たちで野球を考え、実行する満足感が得られるのだ。
一方、気になるのは技術論についてだ。
佐藤監督はほとんど技術的な指導をしないと言うが、それで本当に野球が上手くなるのか、という疑問が浮かぶ。自ら練習に励み、先述した「究極の力」を身につけられても、高校生の知識で技術を高めるのはそう簡単なことではないだろう。
それでも、佐藤監督は平然と答える。
「それが身につくんですよ。手取り足取り教えなくても、自分で考えてやると身についていく。(考えさせる効果は)僕の想像を超えていました。(普通は)何か一生懸命に集中してやっているときに『ちょっと待って』って指導が始まるわけですよね。それがいろんなものをストップさせている。そうじゃなくて自分が決めたことを集中して、黙々とやっていると不思議と上手くなるんです」
リードオフマンとして、チームに欠かせない存在の内野手・金子和志は守備も上達した選手の一人だ。
金子は秋の県大会決勝の仙台育英戦でスタメンを外された。すると、一人である行動に出た。
「下の学年のセカンドが僕より守備がうまくて。スタメンを外れた時、その理由がわかったんですよ。それから毎朝、壁当てをするようになりました」
佐藤監督は一度も、金子の守備の課題について伝えたことはない。それでも金子本人はチーム内の立ち位置を感じ取り、自らを奮い立たせて行ったのだった。
エース覚醒の裏に「監督の助言」
もちろん、佐藤監督も何も言わないわけではない。ただ、「こうしろ」と命令することは極めて少なく、ほとんどがアドバイス程度。その分、選手を観察しながら折を見て声をかける。
宮城大会の決勝前には、エースのハッブス大起の元に歩み寄り、「今日は8割の力で投げてみたらどう?」と声をかけた。そしてハッブスの意思を確認したのち、試合前の円陣で「今日は大起が8割で投げる」と発表。これまでになかったチャレンジに、選手たちは「おーー」と盛り上がり、ハッブスのやる気を促したのだ。