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「羽生先生と藤井(聡太)五冠の共通点かな、と」羽生善治の天才性を渡辺明名人らトップ棋士はどう評したか「だって羽生さんは…」
posted2023/01/28 17:00
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
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日本将棋連盟/Tadashi Shirasawa
<名言1>
もう勝ちだ、早く投了しろよという気持ちで頭がこんがらがって、集中を欠いていたとしか考えられません……。
(森下卓/Number1010号 2020年9月3日発売)
◇解説◇
藤井聡太王将(竜王、王位、叡王、棋聖と五冠)に羽生善治九段が挑む第72期王将戦第3局が28日、石川県金沢市で始まった。第1局は藤井、第2局で羽生がそれぞれ大熱戦を制して1勝1敗のタイ。いずれが一歩リードするか注目が集まる本局で藤井は鮮やかなライトブルー、羽生は重厚な色合いの和服をまとい、“雪の金沢の陣”に臨んでいる。
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前日検分後の取材に対して羽生は「連敗スタートにならなくてよかったなというところもありますし、2局目と3局目の間は結構間隔が短かったので、すぐに次の対局は来たなというような感じも持っています」と語っている。数々のタイトル戦を経験してきたからこそ、1つ1つの言葉に重みを感じさせる。
さかのぼること27年前、将棋界の枠を超えて世間は――現代の藤井と同じく――1人の若き天才棋士の戦いに大きく注目していた。24歳から25歳にかけての羽生善治がひた走った「七冠制覇」ロードである。
19歳2カ月での初タイトルとなった竜王獲得を口火に、羽生は当時の七大タイトルを着々と制覇していく。94年度に六冠王となった羽生は翌95年の王将戦で谷川浩司(現十七世名人)に挑んだものの、フルセットの末に敗れた。
新年度からは六冠をすべて防衛した上で世間の「七冠獲得」への期待に応えなければいけないという立場になったのだが……羽生は強さを見せつけた。
さっそく真骨頂の“羽生マジック”を見せたのが95年4月の名人戦第1局だった。挑戦者の森下卓(現九段)が優勢で進める中、羽生は22時近くになっても、投了することはなかった。それに対して森下は“まだ投げないのか”と心がざわつき、盤面への集中力を一瞬失った状態となる。そこで生まれた、たった1つの悪手。そこから羽生が反転攻勢を仕掛け、あれよあれよの大逆転劇が生まれたのだった。
“将棋を始めるきっかけの羽生さん”とタイトル戦で
<名言2>
羽生先生とタイトル戦の五番勝負を戦うのが、不思議な感覚でした。
(斎藤慎太郎/Number1018号 2021年1月7日発売)
◇解説◇
世間的には藤井の目覚ましい躍進が強烈なインパクトを与えているが――20代後半から30代前半のトップ棋士たちも将棋ファンの胸を熱くする戦いを繰り広げている。その代表格が斎藤慎太郎八段だ。
「さいたろう」というチャーミングなニックネームで知られる斎藤。確かな棋力を持つ関西の雄は、前期、前々期の順位戦A級でトップの成績を残し、2季連続で名人戦の挑戦者となった実績の持ち主でもある。
その斎藤が初めてタイトル戦に挑んだのは2017年の棋聖戦のこと。この時にタイトル保持者として君臨していたのが羽生善治だった。93年生まれの斎藤にとって、羽生という存在は「将棋を始めるきっかけとなった入門書の著者」でもあった。