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「当時の羽生さんは弱かった」羽生善治少年は“天才”ではなかった? 奨励会時代を知る阿部隆の証言「マジックなんて言ったら失礼ですよ」
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJIJI PRESS
posted2023/01/26 17:02
2023年1月22日、第72期王将戦7番勝負第2局で藤井聡太王将に勝利した羽生善治九段。52歳となった現在も、その探究心はまったく衰えていない
羽生善治は天才ではなく、努力の人
天才ではなく、努力の人。阿部はそう言いたかったのだ。そして、羽生から学んだのが急がぬ勝ち方。遠回りに見えるぶん、周りからは見えにくい。いまならば、あの▲1一角も阿部の読み筋に入る。
「羽生さんは常に一生懸命、最善手を探って指している。それをマジックなんて言ったら失礼ですよ。だって、まやかしのように聞こえるじゃないですか。そういう類のものではないはずです。
あの時の竜王戦もそう。羽生さんは対局過多で、明らかに疲れ切っていた。それはもう、かわいそうになるくらいに。それでも局数が進むにつれて、凄い迫力が出てくる。しかも、逃げずに僕の将棋を正面から受け止めてくれた。変化すれば、いくらでも勝てたはずなんです。彼の棋力をもってすれば。僕らとは器が違う」
つまるところ、羽生マジックとは何なのか。ある種、羽生善治以外の人間が手がける二次創作のようなもの。当事者の声に耳を傾けるほど、そう思えて仕方がない。原点となる創作物を目の当たりにした者たちが思い思いに紡ぎ出す物語。その深みと広がりはおそらく羽生の理解を超えるものだろう。何しろ、彼だけには珠玉の魔法に魅入られるチャンスがないのだから。
<前編から続く>