スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
日本に逆転負け→モロッコ戦で「パス1000本以上、枠内シュート1本」 スペインらしい“W杯敗因”はストライカー不足だけではない
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/12/29 17:01
日本、モロッコ相手に敗れたスペイン代表。再び王朝を築くために必要な人材とは?
結果として代えのきかない駒となったモラタは、逆転負けした日本戦以外の3試合で勝負どころまで温存されることになった。それでも3ゴールを挙げたモラタとは対照的に、不慣れなファルソ・ヌエベ(偽CF)で起用されたマルコ・アセンシオはコスタリカ戦で1ゴールを記録するにとどまった。
ドリブルが光るウインガーを有効活用できていない
個人的にはウイングの人選も不可解だった。専守防衛を決めこんだライバルを崩す定石はサイドからの打開であり、そのためには突破力のあるウイングの存在が不可欠だ。その点、今回選ばれたドリブラーの顔ぶれには物足りなさを感じざるを得なかった。
実際、今大会でその役割を果たしたのは9月に初選出されたばかりのニコ・ウィリアムスだけで、あとはモロッコ戦の終盤に奮闘したダニ・オルモくらいしか記憶に残らなかった。全くドリブル突破が通用しないのに、なぜかウイングで起用され続けたフェラン・トーレスは「コネ採用(ルイス・エンリケの娘と交際中のため)」と揶揄されても仕方のない出来だった。
偽CFでスタートするにしても、過去に実績を残しているオルモやフェランを起用する手もあったはずだ。中途半端な使われ方に終始したアンス・ファティ、モロッコ戦でPKを蹴るためだけに使われたパブロ・サラビア、全く出番がなかったジェレミ・ピノの冷遇も含め、首を傾げることが多かったルイス・エンリケの人選が攻撃の停滞を招く一因となったことは間違いない。
そもそもリーガが「国産ドリブラー産地」ではなくなった
とはいえ、ウイングについてはあまり選択肢がなかったことも事実だ。ラ・リーガの各クラブを見渡しても、このポジションでプレーしているのは外国人選手ばかり。近年スペインでは国産のドリブラーが育っていないからだ。
ホアキン・サンチェス、ヘスス・ナバスらが台頭した2000年頃まで、スペインにはアンダルシアを中心に優秀なドリブラーを生み出す土壌があった。それが変わった背景には、スペイン全土に浸透したポゼッションスタイルの影響がある。
EURO2008での成功を機に「ティキタカ」と呼ばれるポゼッションスタイルがラ・ロハのアイデンティティーとして定着して以降、多くの指導者が足元から足元へ確実にパスをつなぎ、ボールを失わず保持し続けるプレーを重視するようになった。
その結果、リスクを恐れず繰り返し突破を試みるようなドリブラーは活躍の場を失い、早々にサイドバックに鞍替えするようになった。ジェラール・デウロフェウ、アダマ・トラオレ、ブライアン・ヒルら数少ない逸材も、母国で突き抜けた存在となれぬまま他国のリーグに活躍の場を求めるようになった。