スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
日本に逆転負け→モロッコ戦で「パス1000本以上、枠内シュート1本」 スペインらしい“W杯敗因”はストライカー不足だけではない
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/12/29 17:01
日本、モロッコ相手に敗れたスペイン代表。再び王朝を築くために必要な人材とは?
スペインが黄金期を築いた2008~12年は、「フゴネス」と呼ばれたシャビ、イニエスタらを中心に据えつつ、このスタイルが定着する前の多種多様な土壌で育った選手たちが脇を固めることで、最強のチームを作り上げることができた。
だがその後に技術&戦術重視の育成メソッドが浸透したことで、近年はスピードと突破力が武器のウイングだけでなく、対人守備に強い屈強なセンターバック、シュート技術やキープ力に秀でたストライカーといった、一芸に秀でたスペシャリストが育ちづらくなってしまっている。それもまた、スペインを弱体化させる一因となっているのである。
「ティキタカ」を否定せず、バラエティーに富んだ人材を
こうした傾向は、ティキタカがスペインにもたらした弊害と言えるかもしれない。しかし、だからと言ってようやく見出したアイデンティティー自体を否定するのはお門違いというものだ。
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ティキタカが浸透して以降、スペインではペドリやガビに代表される才能豊かなMFが続々と台頭するようになった。ウイングからの転向例が増えたことにより、世界的に常に手薄なサイドバックも優れた人材で溢れるようになっている。それらはティキタカがもたらした恩恵と言えるだろう。
何よりフィジカル面で他を圧倒できないスペイン人には、技術とインテリジェンスを駆使して戦うこのスタイルが合っている。スペインフットボール協会が年代別の代表監督を歴任してきたルイス・デラフエンテをルイス・エンリケの後任に据え、継続路線を打ち出したのもそのことをよく理解しているからに他ならない。
ビジャ、カシージャスとシャビ、イニエスタの融合を再び
先述したスペシャリストの減少についても、既に指導者の間で議論が交わされており、各クラブが育成メソッドを見直しているという。今後はニコのような移民2世も増えてくるため、よりバラエティーに富んだ人材の台頭も期待できるだろう。
決定力と局面打開力を兼ね備えたダビド・ビジャ。馬力とスピード、機動力に優れたフェルナンド・トーレス。空中戦では無敵のフェルナンド・ジョレンテ。切れ味鋭いドリブル突破と正確無比なクロスが武器のナバス。対人守備最強の闘将プジョル。神がかりなシュートストップを連発するイケル・カシージャス――。
黄金期のラ・ロハでは、そんな個性の強い脇役たちがシャビ、イニエスタ、ブスケッツ、シャビ・アロンソらフゴネスと生かし、生かされる関係を築いていた。
目指す理想像は明確にある。あとは目先の結果にとらわれず、進むべき道を進むだけだ。
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