スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
日本に逆転負け→モロッコ戦で「パス1000本以上、枠内シュート1本」 スペインらしい“W杯敗因”はストライカー不足だけではない
posted2022/12/29 17:01
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Kiichi Matsumoto/JMPA
良くも悪くも「らしい」散り方だった。
ワールドカップカタール大会の決勝トーナメント1回戦で、スペインは延々とパスを回しながら1ゴールも奪うことができず、PK戦の末に伏兵モロッコに敗れた。
1000本以上のパスをつなぎながら、放った枠内シュートはわずか1本。やはりPK戦に持ち込まれた前回大会のロシア戦と同じ轍を踏んでの敗退に、アンチ・ポゼッション論者はここぞとばかりに「ティキタカの最後」と声を上げた。
「ポゼッション73%でも…」「1000のパスと息絶えた」
その一人はファビオ・カペッロだ。大会中、彼はスペインの戦いぶりをこう批判している。
「トケ、トケ、トケで勝つことはできない。73%のポゼッションを計上しても、1本も枠内シュートを打てなければ何の役にも立たない。スペインには期待していたのだが、あそこまでトケが多くては不可能だ」
テクニカルなフットボールを重んじるご意見番のホルヘ・バルダーノさえも、今大会のスペインに対しては辛口だった。
「ティキタカは一時期、神聖なる打開策として讃えられたが、ロシアに続いてカタールでも1000のパスと共に息絶えた。一部の選手は横パスを愛し、リスクを冒さなくなっていた」
東京五輪準優勝、EURO2020での4強入りといった経験を経てたくましく成長してきた若きラ・ロハは、ブラジル、フランスらと並ぶ優勝候補の筆頭とまではいかなくとも、上位進出への大きな期待を背負って今大会に臨んだ。
ところが蓋を開けてみれば、驚くほど緩慢だったコスタリカ相手の大勝を除き、以降の3試合では1分2敗、2得点3失点という乏しい結果しか残すことができなかった。
現地紙が挙げた「ルイス・エンリケ7つの失策」
もう少し何とかできたのではないか。大会終了後もそんな後味が残っているのは、ルイス・エンリケの人選と采配に不可解な点が多かったからだろう。
ディアリオ・アス紙の代表番ホアキン・マロトは、「ルイス・エンリケの7つの失策」と題した記事でそんな我々の思いを代弁している。
いわく、最大の失策は26人もの選手を選べたにも関わらず、アルバロ・モラタ以外にセンターFWを呼ばなかったことだという。
ストライカー候補としてはジェラール・モレノとラウール・デ・トマスが呼べる状況になかったとはいえ、ボルハ・イグレシアスやイアゴ・アスパスもいた。2010年大会のフェルナンド・ジョレンテのようなパワープレー要員として、空中戦で無類の強さを誇るホセルをベンチに置いておく手もあっただろう。
しかし、ルイス・エンリケはモラタの代役が務まるストライカーを1人も呼ばなかった。