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「棋士になりたい」と大手企業を退職…アマから編入試験に挑戦、小山怜央さんに漂う“藤井聡太五冠のような寄せ”と人間性とは
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/13 11:03
棋士編入試験5番勝負第1局で徳田拳士四段(左)に勝利し、対局を振り返るアマチュアの小山怜央さん(代表撮影)
小山さんはプロ公式戦で10勝5敗と所定の成績を収め、棋士編入試験の受験資格を得た。記者会見では「受験は前向きに考えたい。まずは家族と相談します」と語った。そして、9月下旬に受験を正式に表明した。
小山さんは棋士編入試験(持ち時間は各3時間)で、直近の新四段の順に徳田拳士四段、岡部怜央四段、狩山幹生四段、横山友紀四段、高田明浩四段と対戦する。里見女流五冠が受験したときと同じ顔ぶれである。5局のうち3勝すれば合格となる。
“勝率9割の精鋭”徳田四段に勝利
小山さんと徳田四段が対戦する棋士編入試験の第1局は、11月28日に大阪の関西将棋会館で行われた。今春に棋士デビューした徳田四段は、プロ公式戦の30局目で勝率が9割という若手精鋭だ。
振り駒の結果、徳田四段が先手番と決まった。戦型は角換わり腰掛け銀。プロ公式戦で流行していて、若手棋士の間では最先端の研究が進んでいる。小山さんも独自に研究しているようで、短時間で指し進めていった。中盤は実戦例がある展開が続いた。
小山さんは最初の長考の21分で△7二香と自陣に打った好手によって、相手玉に厳しく迫っていった。徳田四段は玉を中段に逃がして窮地をしのぐと、反転して寄せにいったが、結果的に疑問だった。
図は終盤の部分的な局面。△7三飛から△6三桂の王手で寄せ切った。▲6四玉(▲8四玉)は△7五銀▲7三玉(▲5四玉は△5五金で詰み)△7二金でぴったり詰み。
飛車を取られても、14手前に下段に打った△7一歩が最後に働くのだ。なお、図の直前に△2六竜▲同馬と捨てて、馬筋をそらせたことで△6三桂を打てた。
実戦は図から、▲7六玉△7四飛▲6七玉△6八金▲5六玉△7六飛と進んだ。手順に駒を取りながら寄せて、小山さんが勝った。
小山さんは記者会見で「途中は望外というか、ちょっと有利になったと思いました。終盤で△2六竜と指して、勝てそうだなと思いました。1局目は勝負にかかわらず内容が大事だと思っていましたので、接戦にすることができ、いいスタートを切れました」と語った。
小山さんの終盤の鮮やかな寄せは、藤井聡太五冠の勝ちっぷりを思い起こすようで見事だった。会見での控えめな様子や口ぶりも、どこか似ているような気がする。
棋士編入試験の第2局は12月12日に東京の将棋会館で行われ、小山さんが岡部四段に勝って2連勝した。
小山さんは15歳で奨励会入会試験、23歳で三段リーグ編入試験を受け、いずれも不合格となった。そして、会社を退職して退路を断って臨んだ棋士編入試験で、「サラリーマンから棋士」への願望は叶いつつある……。
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