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オリンピックへの道BACK NUMBER
「一瞬、羽生結弦さんと2人だけの空間に…」ケガから復帰の平昌五輪、フォトグラファー・遠藤啓生がとらえた「乗り越えたことを証明する直前の表情」
posted2022/11/13 11:03
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Hiroki Endo/Asahi Shimbun
2012年、フランス・ニースでの世界選手権でフォトグラファー遠藤啓生は、羽生結弦の銅メダルに大きなインパクトをうけた。
以後、大会で羽生を撮り続けてきた遠藤にとって、心に残る写真がある。2018年、平昌五輪での1枚だ。
負傷による長期休養からの復帰戦であったこの大会で羽生はそうとは思わせない演技を披露。ソチに続く金メダルで五輪連覇を達成した。
この試合の中で遠藤の印象に残っているのは、ショートプログラムの演技直前、羽生の表情をアップでとらえた写真だ。
羽生さんとの距離は2m、3m以内だった
この日、遠藤はリンクサイドに陣取った。
「ジャッジ席と反対側、バックスタンド側にいました」
フォトグラファーの位置は、他の国際大会同様、抽選によって決まる。スタートとフィニッシュでスケーターがジャッジ側を向くことを考えれば、そちらにいたかったが、抽選の末に遠藤はバックスタンド側に位置取ることになった。
羽生は最終グループの6人中、最初の滑走順だったため、6分間練習が終わったあともそのままリンクに残っていた。
周回する羽生が近づいてきた。遠藤はレンズを向け、シャッターを切った。
「望遠ではなく、70ミリのレンズだったと思います。個人的に心に残りました」
このとき、羽生と最も近い位置にいたフォトグラファーは遠藤だった。
「羽生さんとの距離は2m、3m以内だったでしょうか。フィギュアスケーターとの距離がここまで近くなることは、競技のときにはあまりありません。一瞬、自分の空間に羽生さんがいる、2人だけの空間になっている、そんな感じがありました」
当時、怪我の状況は分からなかった
不思議な感覚に襲われる中での1枚。遠藤は自身がこの1枚に惹かれた理由を、こう考えている。