オリンピックへの道BACK NUMBER

「一瞬、羽生結弦さんと2人だけの空間に…」ケガから復帰の平昌五輪、フォトグラファー・遠藤啓生がとらえた「乗り越えたことを証明する直前の表情」 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byHiroki Endo/Asahi Shimbun

posted2022/11/13 11:03

「一瞬、羽生結弦さんと2人だけの空間に…」ケガから復帰の平昌五輪、フォトグラファー・遠藤啓生がとらえた「乗り越えたことを証明する直前の表情」<Number Web> photograph by Hiroki Endo/Asahi Shimbun

ケガから復帰し、平昌五輪で演技を行う直前の羽生結弦の表情。2連覇を成し遂げる演技がされるまでの本人の表情をとらえた1枚だ

「集中しているのはもちろんですが、何か、『乗り越えた』ことを証明する直前の表情というのか。後から見ればオリンピック連覇をした大会ではありますが、当時、怪我の状況は分からなかったですし、ショートプログラムが始まるまでどういう演技ができるのか、多くの人はわかりませんでした。一方で素晴らしい演技を見せてくれるだろうという大きな期待もあった。そういった期待を背負っていること、背負う中で演技を行い、この数分後には結果が出る状況にあること、そういった直前ならではの内面が表情に出ていたように思います。覚悟というか、邪念をすべて取り払っているかのような……。その分、演技が終わったあとの柔らかい表情も覚えています」

 表情をここまでクローズアップした写真が成り立つのは、羽生の存在が大きかったという。もともと、競技写真と言えば、選手のパフォーマンスを伝えるために全体をおさえる構図であることが求められていた。2012年のフランス・ニースでの世界選手権で、手足の長い羽生を1枚におさめることに遠藤が苦労したのもそのためだ。

羽生によって変化が生まれた写真の構図

 だが羽生の活躍によって、構図に変化が生まれたと語る。

「上半身だけでもいいんじゃないか、この写真(本記事の一番最初の写真)のように完全に顔のアップでもいいんじゃないかとなってきたと思います。というのも、羽生さんは、ジャンプやスピンなど要素のつなぎや流れがやっぱり上手な選手ですし、表情でも表現をしっかりしている選手です。そうなると、全体ではなく部分を撮っても成り立つわけです。ドキュメンタリーのような写真でもありなんだな、と僕だけじゃなくフォトグラファーたちが気づかされたように思います」

 2019年の全日本選手権のとき、遠藤はジャンプ着氷後の羽生を背中越しにとらえた。その写真はwebの記事に使用され、大きな反響があったという。

「本人の顔が映っていなくてもいい、背中でも語れるんだ、そんなことを思いました」

【次ページ】 なぜ全身でなくても写真として成立するのか?

BACK 1 2 3 NEXT
羽生結弦
遠藤啓生
菅原正治
平昌五輪

フィギュアスケートの前後の記事

ページトップ