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「1日目は眠らず、2日目は20分睡眠だけ…」“日本新記録で”415km走ったクレイジーランナー・土井陵は全然寝ない男「5日弱で睡眠は計4時間半」
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byTomosuke Imai
posted2022/11/05 17:07
「4日17時間33分」という驚異的な大会新記録でTJAR初優勝した土井陵
土井 南アルプスに入るまでは、カフェインはできるだけ夕方に摂るようにして、夜まで眠くならないようにもたせていたのですが、南アルプスではどうにも集中力が切れてしまって、午前10時頃に摂りました。カフェインを摂ったことで少し回復し、仙丈ヶ岳まで登ったわけですが、また三峰岳に向かう頃に眠くなってしまって。レース中、一番きつくてペースも上がらなかったのがこの辺りでした。
――カフェインで眠気が収まらないときは、どう対処するのでしょう。
土井 そうなったら歌を歌うくらいしかないですね(笑)。今回はミスチルのメドレーを歌っていました。学生時代のときに流行っていた「イノセントワールド」とか初期の曲を。三峰岳を下っていたらNHKの撮影班が見えて、そこで一瞬、元気になりました。やはり真っ暗闇の中、自分のヘッドライトの灯りだけで進む状況と、前方にチラチラとライトの灯りが見えて誰かの存在を感じて進むのとではまったく違うんです。元気をもらえるというか、「頑張らなければあかん」という気持ちに切り替わるというか。
――終始テレビカメラに追われていたそうですが、睡眠にも影響しましたか。
土井 僕は言いたいことははっきり言うタイプなので、カメラに追われること自体は気になりません。どうしても集中できないときは、「ちょっと撮るのを止めてもらっていいですか?」と声をかけたりしますから。今回、南アルプスで一度だけツェルトを張って寝たのですが、朝起きて開閉口のファスナーを開けたらTVカメラに撮られていたということはありました(笑)。それが駒ヶ根の次に仮眠した熊ノ平でのことです。
南アルプスは山が深くて1日では越えられないので、どこかで夜ツェルトを張ることになるだろうなと考えていました。結局、熊ノ平では80分ほど仮眠して、30分で準備をして出発しました。
最後に寝たのは茶臼岳の下りです。上手く寝られなかったのか、寝覚めはよくなかった。本当は南アルプスを下りてから畑薙ダムのバス停跡で寝るつもりでしたが、南アルプス前半で睡魔との戦いがあり、ブレーキがかかってしまったので辿り着けなかったんです。その後は明るくなったので元気も出て、ペースも戻ってきました。
改めてレース中の睡眠時間を合計すると……4時間半くらいですね。
5日弱で4時間半「身体はそれほど疲れていない」
――5日弱で4時間半……。それだけ極端に短い睡眠で415kmパフォーマンスを維持できるというのはなかなか理解しにくいところがあるのですが。土井さん自身はどう振り返りますか?
土井 自分の可能性を発見できたという感じですね。「これくらいでいけるかな」と想像していた線を越えています。ただ、これは何にでも言えることなんですけれど、僕は「常識にとらわれんとこ」といつも思っていて。これまでの100マイルレースや事前の試走から、5日切りはできるだろうと考えていました。
――レース中の睡眠は、筋疲労や内臓疲労を回復させる目的も大きいと思いますが、これほど短い仮眠の場合はむしろ脳を休ませるといったイメージの方が近いのでしょうか。