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「ずっと弱かったんで」オリックス日本一の夜に比嘉幹貴(39歳)が噛み締めた想いとは? 低迷期を知るベテランの「こんな日が来るとは」
posted2022/11/03 11:03
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Nanae Suzuki
「こんな日が来るとは」
日本一を決めた夜の、比嘉幹貴の言葉には、実感がこもっていた。2010年入団の39歳は、オリックスの長い低迷期を知っている。
「言い方はあれですけど、ずっと弱かったんで。本当にこんな日が来るとはって、嬉しいですね」
12月に40歳を迎える比嘉は、日本シリーズの主役の1人だった。影のMVPと言ってもいい。チームのピンチでマウンドに上がり、そのたびに完璧に火を消した。
5試合に登板、被安打はわずか「1」
まずは第1戦。2-4とビハインドの5回裏、エース山本由伸が左脇腹の違和感で降板する緊急事態で、急遽マウンドに上がると、山本が追い込んでいたキブレハンを1球で三振に取る。そして、山本から本塁打を含む2安打を放ちヤクルト打線の火付け役となっていた1番・塩見泰隆も空振り三振。塩見は不思議そうに首を傾けた。最後は2番・山崎晃大朗をショートライナーに打ち取り、エース降板の動揺を鎮めた。もしもここで崩れていたら、シリーズはまったく違った展開になっていたかもしれない。
第2戦は同点の延長11回裏に登板。安打を許すが、3番・山田哲人をファウルフライ、4番・村上宗隆、5番・オスナを連続三振に取り、無失点で切り抜けた。第3戦は6回表1死二塁、第5戦は5回表1死一、三塁のピンチでマウンドに上がり、いずれもランナーを還すことなくチームを救った。
そして第7戦では、8回裏に3番手の山崎颯一郎がオスナに3点本塁打を打たれ5-4と1点差に迫られた場面で、登板。6番・中村悠平を133キロのスライダーで空振り三振に取ると珍しく吠えた。そして粘るサンタナもピッチャーゴロに打ち取り、ヤクルト打線の追い上げを食い止めた。
7試合中5試合に登板し、許したヒットはわずか1本。困った時の救世主として、ヒリヒリする場面での登板が続いたが、比嘉はいつも通り、自然体だった。