猛牛のささやきBACK NUMBER
「ずっと弱かったんで」オリックス日本一の夜に比嘉幹貴(39歳)が噛み締めた想いとは? 低迷期を知るベテランの「こんな日が来るとは」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNanae Suzuki
posted2022/11/03 11:03
日本一歓喜の瞬間、若手たちよりも高く跳び上がるオリックス比嘉幹貴(39歳)。低迷期を知るベテランの言葉はズシリと重い
比嘉は、2014年の優勝争いを知る数少ない選手の1人だ。その年は62試合に登板し、防御率0.79という驚異的な働きを見せた。だが、ソフトバンクとの激しい優勝争いの末、10月2日に行われた直接対決の延長10回裏、松田宣浩のサヨナラ安打でソフトバンクが優勝を決め、オリックスの優勝が消えた。その時、マウンドにいたのは比嘉だった。
その後、もともと抱えていた肩の痛みが悪化し、2015年に手術。16年は16試合、17年は8試合の登板に終わったが、18年に復活を果たした。
のちに、こう話していたことがある。
「クビにならなかったのが不思議ですね。その時もう33とか34歳で、しかも肩をやってる選手を。すごいですよね、残すって。そこは本当に感謝しています。そこでクビって言われても、『あ、はい』って感じだったと思うし、ずっと覚悟はしてました。他にピッチャーいっぱいいるのに。ありがたいですね」
19年のインタビュー「優勝、してみたいですね」
だがチームは2015年以降、再びBクラスが続き、2014年の優勝争いがまるで栄光のように語られ続けた。最下位に終わった2019年のオフにインタビューをさせてもらった際、複雑な思いをもらしていた。
「優勝、してみたいですね。やっぱりいまだに2014年のことを言われるんですよね。メディアの方にも、ファンの方にも。うちのチームは2014年で止まっているというか。それ以降(成績が)全然なんで……。いや、いつの話をしてるの? って思うんですけど、この10年で、あの年ぐらいしか(優勝争いは)なかったから。だから早く、2014って言われないような年を作りたい。『もういいよ』って思うんですけど、ファンにとってはあの時しかないんで。それは僕たちが悪いんですけどね。それしか、思い出させてあげられないから……」
申し訳なさそうに、そう話していた姿が忘れられない。
だが昨年、25年ぶりのリーグ優勝を果たし、ようやく2014年の記憶を歓喜で塗り替えた。そして今年、リーグ2連覇と日本一を叶えて、上書きした。
「こんな日が来るとは」
比嘉と同じように、そうつぶやいたファンは、きっとたくさんいることだろう。
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