プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“三冠王打法”ヤクルト・村上宗隆から松井秀喜への質問とその答え「すでに僕を超えている」「まだまだ遠い存在です」の真意とは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2022/10/14 11:30
CSファイナル第2戦で値千金の逆転2ランを放ったヤクルト村上宗隆
村上からの質問と松井の答え
「打撃の中で最も大事にしているものを聞きたいです」
松井さんの答えはこうだった。
「練習と試合では違いますね。試合になると攻撃に集中しないといけないので、自分が相手ピッチャーに合わせてどこで始動するか。そこだけです。あとは練習どおりにやるだけ。自分の体という意味では始動のタイミングですね。自分がどこで動き出すか。いろんなモーションをするピッチャーがいるので、どこで自分が動き出すかを意識していました」
実はメジャー挑戦の1年目だった2003年に、松井さん自身が最も苦労した1つが、この始動のタイミングだったのである。
「日本ではただ1つだけ見ていれば良かった」
松井「ずっと”その瞬間”に合わせて始動してきた」
そのとき松井さんがこう語るのを聞いたことがある。
「投手がモーションを起こして、右投手なら右足、左投手なら左足の軸足が折れる瞬間がある。そこで始動すれば、ほぼタイミングが合ったから、ずっとその瞬間に合わせて始動してきた」
多くの打者が軸足ではなくモーションを起こして足を上げる、その足の動きでタイミングを取るのに対して、スイングスピードが桁外れに速いからこそ、松井さんは軸足の折れという独特な始動のタイミングを持っていた。その分だけ長くボールを見ることもできていた訳だ。軸足の折れかどうかは分からないが、普通の打者より一瞬、遅い始動のタイミングという点は、まさに村上と一致する部分かもしれない。
そして下半身主導で動くオーソドックスな投球スタイルがほとんどの日本のピッチャーを相手していたときには、これで済んでいた。ところがメジャーに行って驚いたのが、投手の投球フォームが微妙に日本の投手とは違うことだった。上半身が強く、日本時代のように膝の動きだけで始動しようとすると、まったくタイミングが取れなくなってしまい苦しんだのだ。
その経験が「いろんなモーションをするピッチャーがいるので、どこで自分が動き出すかを意識していました」という言葉につながったのである。
将来的には村上がメジャーを見据えていることも松井さんは知っている。だからこそ自らの経験を踏まえた上で背番号55の後輩に送られたアドバイスであり、もちろんこの“金言”は、試合後には本人にも伝えられているという。