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人類初の4回転アクセル成功、17歳マリニンは一体何がスゴい?「羽生さんが刺激してくれたことは確かです」ジャンプの常識を覆す発想転換とは…
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byGetty Images
posted2022/09/16 17:25
世界初の4回転アクセルを成功させた17歳のイリア・マリニン
「羽生さんが刺激してくれたことは確かです」
「練習を始めてからは、タイミングや良いアプローチを解明していくのは、そんなに難しいことではありませんでした。3月か4月頃から本格的に練習を始めて、改良してきました。僕の挑戦を、羽生さんが刺激してくれたことは確かです」
実際のところ、マリニンは羽生さんに憧れて育ってきたスケーターだ。ノービス時代には、羽生さんのプログラム「SEIMEI」そっくりの衣装で滑ったこともある。羽生さんの4回転アクセルへの挑戦を4年間見つめて、その技術の変遷を知っていることが、マリニンの4回転アクセルのベースにある。
羽生さんは4年前、もともとはトリプルアクセルの延長にあるという考えから、より大きく高く跳ぶということから始めた。しかし飛距離や高さには限界があり、回転速度に着手。いかに回転軸に入るタイミングを早めるかを試行錯誤したのが、2021年全日本選手権と北京五輪だった。つまりマリニンは、羽生さんの模索を継承する形で、「いかに回転軸に早く入るか」だけを追求することが出来た。
そして若き武者がたどり着いたのは、脱セオリーという手法だった。羽生さんのダイナミックな正攻法の跳び方をもとに、飛距離を出さないアプローチを加え、そして右足への体重移動を行わないという手法へとたどりついた。
効率的かつ時代を象徴するアクセル
実は、手をあまり振り出さず、上方向に跳ぶのは、もともとロシア選手が多く取り入れているテクニックだ。カミラ・ワリエワやエリザベータ・トゥクタミシェワら、トリプルアクセルを習得している女子選手は、筋力的に男子選手ほど飛距離を出せないことから、上方向へのアプローチをしている。両親がウズベキスタン(旧ソ連)の元五輪代表であるマリニンは、ロシア的なテクニックも、上手に取り入れていた。
マリニンの跳び方は、効率的でかつ、新しい時代を象徴するアクセルである。しかし答えは1つではない。羽生さんが追い求める、飛距離がありダイナミックで美しい4回転アクセルは、また違うアプローチの先にある。羽生さんが4回転アクセルを完成させたその時、2人それぞれのアクセルの魅力が、より輝きを増すことになるだろう。
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