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人類初の4回転アクセル成功、17歳マリニンは一体何がスゴい?「羽生さんが刺激してくれたことは確かです」ジャンプの常識を覆す発想転換とは… 

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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posted2022/09/16 17:25

人類初の4回転アクセル成功、17歳マリニンは一体何がスゴい?「羽生さんが刺激してくれたことは確かです」ジャンプの常識を覆す発想転換とは…<Number Web> photograph by Getty Images

世界初の4回転アクセルを成功させた17歳のイリア・マリニン

「スイートスポットに行きたいけれど…」

「空中姿勢のときに、どこが一番心地よいと自分が思えるかを探しています。心地よいスイートスポットみたいな所に、ハマりきるのが早ければ早いほど、楽にジャンプが跳べるんですよね。アクセル以外のジャンプは横に回すので、そのスイートスポットに入れるんですが、アクセルはそこに入ることが出来ないんです。僕はアクセルを横に回せず(前方に大きく跳び出すので)スイートスポットに入れない、入るのが遅い、というところがある。だからこそ回転軸に入るためのアプローチをどういう風にしていくか、ということを考えています。最終的にはスイートスポットに行きたいけれど、僕のように前に跳び出すアクセルの場合は、そこが答えじゃないかも知れない。他の人はそこ(ほかの5種類のジャンプと同じ回転軸)が答えかも知れない。スイートスポットに近いけれど、自分のアクセルとして一番回転が速く回るところをどんどん探していって、最終的に掴みきれればいいと思っています」

 羽生さんが何度も「僕のアクセル」と語るのは、大きく前方に飛び出していく飛距離のあるアクセルのこと。このダイナミックさと軽やかさがあってこそ、出来栄え点(GOE)で「+5」を何人ものジャッジから獲得してきた。

 つまり羽生さんにとってアクセルは、ただ降りられればよいジャンプではなく、いかに美しい軌道を描いてダイナミックに跳ぶか、が重要なジャンプなのだ。だからこそ、「空中で体重移動すること」と「空中で回転軸を作ること」という2つの動作を、どう組み合わせるか、真正面から取り組んできた。

マリニンの4回転アクセルは全く違う跳び方

 ところが、このUSクラシックでマリニンが成功させた4回転アクセルは、全くといっていいほど違う跳び方だった。なんと、左から右への体重移動を行わないのだ。ではどうやるかというと、右足をあまり前方に振り出さずにコンパクトに上げたあと、踏み切った左足の後ろに右足を引き寄せている。こうやることで、左から右へと移動させるのではなく、体の中央に回転軸を作っていた。

 両手も、前方への体重移動が起こらないように、振り子のように振り出さない。両手をリラックスさせた状態で踏み込み、跳び上がる瞬間は真上に向かって引き上げることで、高さをサポートしていた。

 斬新なアイデアであり、そして非常に効率的な跳び方である。ただ、その器用な空中での回転軸の作り方は、誰もが出来ることではない。マリニンの最も優れた能力は、跳躍力や回転力ではなく、空中で右足と左足をいかようにでも動かせる空中感覚にある、と感じた。

 マリニンは試合後、こう話した。

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