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人類初の4回転アクセル成功、17歳マリニンは一体何がスゴい?「羽生さんが刺激してくれたことは確かです」ジャンプの常識を覆す発想転換とは…
posted2022/09/16 17:25
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Getty Images
人類が4回転半を回り切る、その瞬間がついにやってきた。米国の若きジャンパー、イリア・マリニンが9月14日、USインターナショナルクラシックの演技冒頭で、切れ味のある4回転アクセルを、しっかりと片足で着氷した。その跳躍はとても軽やかで、世界最高難度のジャンプとは思えないほどリラックスした跳び方だった。一体なぜ、マリニンは4回転半を回ることができたのか。そこには、アクセル140年の歴史を覆す発想の転換があった。
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4回転半の技術を語るには、まずアクセルそのものの説明が必要になるだろう。アクセルは、前向きに滑り、左足で踏み込んで跳び上がる。その際に、右足は大きく前方に振り出し、その投げ出した右足の上に空中で立ち上がるような感覚で、回転軸を作る。両手も、助走のときにいったん大きく引いてから、踏切と同時に前に振り出して、前方への跳び出しをサポートする。つまり、アクセルをひとことで表現するなら「左足から右足へ、空中で体重移動させる」ジャンプなのだ。
昔から、アクセルを習うスケーターたちに繰り返されてきた助言は「右足に絡まるように」「右手に抱きつくように」というもの。「(1)左足で踏み切ったあと」「(2)空中で右足に体重移動して」「(3)そのあとに右足の前に左足を絡めることで回転軸に入る」という段階を踏むため、どうしても回転軸に入るタイミングが遅くなるという特性があった。
4回転アクセルについて羽生結弦が話していたこと
4回転アクセルの開拓者である羽生結弦さんは、8月のインタビューでこう話していた。
「どれだけ早く回転軸に入れるのか、その軸に入るためにはどういう技術を使うのか、ということを、これまで考えてきました。全日本選手権のやり方であれば回転軸には入れたのですが、もう一段階、早く回り始められると思うんです。そこをもうちょっと突き詰めていけばいいのかなと自分のなかで思っています」
この時、羽生さんは4回転アクセルの難しさについて、回転軸の位置の違いについても語っていた。ほかの5種類のジャンプはテイクオフの瞬間から回転が始まるため、体を締めるだけで回転軸に入ることができる。しかしアクセルは、空中に上がったあとに右の回転軸を探すことになるため、回転軸の精度が変わるというのだ。