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「お手本はユヅ」4アクセルを世界初成功、マリニン17歳が“試合直後に語った”快挙の舞台裏「僕は完璧主義」《独占インタビュー》
posted2022/09/15 19:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Akiko Tamura
今季のチャレンジャーシリーズ初戦、USインターナショナルクラシックはニューヨーク州レイクプラシッドで開催された。この大会の男子フリーでアメリカの17歳、イリア・マリニンが公式試合で初めて、4アクセルをクリーンに成功させた。
レイクプラシッドは人口わずか2000人ほどのリゾートタウンで、観客は関係者も含めて100人いるかどうかという、ほとんど空のアリーナだった。だがその瞬間、悲鳴にも似たかん高い歓声が響き渡った。1980年冬季オリンピックの開催地でもあるこの地で、フィギュアスケートに新たな歴史が刻まれた瞬間だった。
「どのようにしたら4アクセルをうまく降りることができるかというのは、身体ではもう習得していました。でも本番で成功させるというのは、また別な話。緊張もあるし、プレッシャーもありました。だからここで降りることができて、とても嬉しいです」
演技後、まだ鼻のてっぺんを汗で光らせたマリニンはそう語った。
現世界ジュニアチャンピオンである彼は、今年の初夏に練習リンクで4アクセルを着氷した映像を公開したことで注目されていた。だがこの大会に来ていたプレス関係者は筆者を除くと、アメリカの記者1名だけだった。
何しろ最も近い都市は車で2時間のモントリオール、筆者の住むニューヨーク市内からは公共交通機関だと7時間、車を飛ばして5時間半という関係者泣かせの辺鄙な土地である。だがマリニンは、おそらくシーズン初戦であるこの大会で4アクセルを成功させるだろうという予感があった。
父親の証言「イリアは挑戦するのが大好きなんです」
いったいいつから、4アクセルの練習を始めたのか。
「やってみたいなという気持ちは、かなり前からあったんです」とマリニン。「でも実際に練習を始めてみたのは、今年の春の3月か4月のことでした」
会場に同行していたマリニンの父であり、コーチでもあるローマン・スコルニアコフは「4アクセルの練習を始めたのは、世界ジュニアが終わってからでした」と証言する。
息子が初めて4アクセルをやってみたい、と言ってきたときは「クレイジーだと思いました」と苦笑した。「当時はそんなことが可能だとは、思わなかったんです」
だがポールに吊るしたハーネスをつけて練習を始めて間もなく、「もしかしたらできるのではないか」と思うようになったのだという。
「イリアはもともと好奇心旺盛で、新しいことに挑戦するのが大好きな性格なんです」