オフサイド・トリップBACK NUMBER
アジア杯の宿敵に大問題発生中。
さらば老兵、オーストラリアよ!
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/02/04 10:30
W杯ドイツ大会、南アW杯のアジア最終予選など日本代表に対して肝心な試合で決勝点を挙げてきたケーヒルは「ジャパン・キラー」とも呼ばれたのだが……。今年31歳のベテランにも黄昏が迫る
国内プロリーグの発足が豪州代表の地盤沈下を招いた!?
会見の席では、かつて浦和を指揮したオジェックも「私は、未来の為に何人かの若い選手を連れてきた」と力説し続けた。
しかし、彼らの言葉を額面通りに受け取るわけにはいかない。アジアカップに臨んだ23人のうち、25歳以下は4人のみ。しかもそのなかで「欧州5大リーグ(リーガ、プレミア、ブンデス、セリエA、リーグ1)」でプレーしている選手は、一人もいないからだ。
つまりオーストラリア代表は、若手の「数」だけでなく「質」においても大きな不安材料を抱えているのである。
ここで浮かび上がってくるのが、オーストラリア国内のサッカー事情だ。
かつてのオーストラリアには、ナショナル・サッカーリーグという名のセミプロリーグがあるだけで、プロを目指す少年たちは否が応でも海をわたって腕を磨かなければならなかった。その代表格がビドゥカであり、キューウェルであり、ケーヒルだった。
ところが状況は2004年にがらりと変わる。同年の11月、本格的なプロリーグ(Aリーグ)が発足。海外にいかなくとも、サッカーで飯を食える環境ができあがった。
これはサッカー少年たちにとっては朗報だったかもしれないが、同時に深刻な問題を引き起こすこととなる。それこそが若年層を中心とした代表のレベル低下、第2や第3のビドゥカ、キューウェル、ケーヒルの不在に他ならない。
たとえば2006年のドイツ大会で、オーストラリア代表を率いたヒディンクは、サイモン・クーパーとの対談で次のように指摘している。
「オーストラリアを例に取れば、ドイツ大会での健闘を支えたのは、ヨーロッパのクラブでプレーしていた選手たちだった。だが今やオーストラリアの若手は、国内のリーグでプレーするようになった。つまりひとつ前の世代のように毎週、トップレベルの選手と戦うことができなくなってきているんだ」
オーストラリアにおけるサッカーは“4番目のフットボール”。
むろん、これは短期的な現象にすぎないと捉えることも可能だ。Aリーグの発足によって草の根にサッカーが定着し、競技人口も増え、以前は存在しなかった確固たる基盤に支えられて新世代が台頭してくるというシナリオも考えられるだろう。現にU-20の代表は、今年コロンビアで行われる世界選手権の出場枠を獲得している。
だが全般的な見通しは明るくない。ドイツ大会に出場を果たした直後の'07-'08シーズンを頂点に、最近では人気に陰りが出ているからだ。
シーズン | 2005–06 | 2006–07 | 2007–08 | 2008–09 | 2009–10 | 2010–11 |
1試合の平均観客数 | 11,281 | 12,985 | 14,608 | 12,181 | 9,831 | 8,468 |
イギリス出身のジャーナリストで、オーストラリアのラジオ局向けにサッカーの実況や解説を行なっているグラハム・デイビス氏は、Aリーグの現状を次のように解説する。
「オーストラリアにおけるサッカーは、『オーストラリアン・ルール(オージー・ボール)』、『ラグビー・リーグ』、『ラグビー・ユニオン』に次ぐ“4番目のフットボール”と呼ばれているんだ。Aリーグは他の3つのフットボールとは違う時期に開催されるけど、放送はペイTVだけでメディアの露出も少ないし、一般の関心は、昔から親しまれてきたオージー・ボールやラグビーにどうしても向いてしまう。当然、興行的にも苦しくなるから、アデレードやゴールドコースト、セントラルコーストといったクラブは財政難に陥ってしまった。
たしかに怪我が比較的少ないということで、サッカーに親しむ子供たちの数は増えている。それに代表だって決して弱いわけじゃない。でも本当の意味でメジャースポーツになるのには時間がかかるだろうね。これはアメリカのサッカー事情に良く似ていると思う」