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「監督のボルボ車がボコボコに…」松井大輔41歳がいま明かす、フランスのやんちゃなサポーター話「発煙筒を手に“お前ら、分かってるか?”」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byHirofumi Kamaya
posted2022/08/19 17:02
23歳でフランスに渡った松井大輔、「ル・マンの太陽」と呼ばれた。現在はYS横浜でサッカー選手兼フットサル選手の「二刀流」として活躍中
古豪としてのプライドを持ったファンの熱さは日本では考えられないほどだという。特に強烈なのが、近郊の大都市リヨンへの対抗心だ。リヨンとのダービーの前日には、サポーターが発煙筒をたいて練習場を取り囲むのがおきまりになっていた。
「お前たち、わかっているのか? オレたちはサンテティエンヌなんだぞ!」
そう言って、彼らはクラブのエンブレムを叩き、選手たちに発破をかけるのだ。
「心のなかでは『わかっているよ、そんなこと』と思いながらも、それに応えないと僕らは帰してもらえませんでした」
それくらいの情熱があるからなのか、松井が試合でゴールを決めた翌日には、練習場に停めておいた愛車がピカピカに磨かれていたこともあった(なぜか“車内まで”掃除されていたのだが、施錠してあった車のなかに彼らがどのようにして入ったのかを松井は知らない)。
一方で、試合に負けると、大変な目に遭う。ある試合に負けたあと、当時のペラン監督の車がボコボコにされていたことがあった。車体の頑丈さで有名なボルボ社の車だったのだが……。
「それだけのプレッシャーを受けるクラブというのは、他にはマルセイユくらいで、フランスのなかでも限られています。ガルティエが、そういうクラブで長く指揮をとった経験は、パリで監督を務める際に活きてくるでしょうね」
「伊東君はフランスが合いそう」
では、ピッチの上でのリーグ・アンの特徴はどんなものなのだろうか。
「デュエルですね」
松井は断言して、その理由をこう続ける。
「一対一の局面では、個人の力で打開することが求められます」
デュエルと呼ばれる、一対一の勝負へのこだわりには、松井も当初は驚かずにはいられなかった。今でも鮮明に覚えている場面がある。相手のサイドアタッカーと自チームのサイドバックの選手が一対一になった局面で、味方のセンターバックがカバーに回ったときのことだった。
「そのセンターバックが叱られたんです、『カバーに行くな!』って。チームの守備のことを考えて、カバーに行ったとしても、フランスではダメ。『この相手を抑えるのはこの選手だ』とか、『このレーンを守るのはオマエだ』というような感じで、守備のタスクがハッキリしている。酒井宏樹君がマルセイユで高く評価されていたのも、そういうデュエルの局面でしっかり守れていたからだと思うんですよね」