甲子園の風BACK NUMBER
「自分たちはそんなすごい選手じゃない」大阪桐蔭は優勝候補なのになぜ驕らない? スター不在の新チームを変えた“三遊間の大声合戦”
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2022/08/14 06:02
大阪桐蔭の三遊間コンビを組む伊藤櫂人(右)と鈴木塁。小学校時代から対戦経験があり、共に切磋琢磨してきた。
伊藤にはショートで勝負したいという思いがあった。しかし、鈴木の軽やかな動きを見ていると、同時に自分の限界も感じていた。昨秋に結成された新チームで伊藤に与えられたのは背番号5。もちろんチーム事情が絡む配置だが、「自分は逃げてサードになったような感じです」と伊藤は明るく振る舞った。
そんな伊藤に対し、鈴木も高い信頼を置いている。
「(伊藤)櫂人がサードにいてくれるから、自分も安心して守れるんです。三遊間は打球を見て自分がカバーできるところはカバーして、カットする部分は自分が進んでやる。そのあたりは2人の感覚を合わせながら守っています」
さらにチームを後押しする“10人目の声”
そして、伊藤は鈴木と三遊間コンビを組んでいくうちに「声」の重要性に気づく。
「自分の声が落ちそうになった時に、鈴木が代わりに(大きな)声を出してくれます。鈴木が隣にいるのは本当に心強いです」
共にノックを受けながらお互いの意識を高め合った。寮では一緒の部屋になったことはないと話すが、練習でも試合でも気が付けば常に隣にいる。存在そのものが“空気”のような関係だ。
絆を深めていく2人の“大声合戦”が始まると、やがてそれは新チームの礎となっていった。三遊間コンビに触発されるように、記録員を務める吉澤昂(3年)もベンチからムードメーカーとして声を張り上げ、西谷監督も信頼を置く“10人目の声”として欠かせない存在となった。