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「ドイツでも私が一番小さかったです」英語も全然話せない、身長161cmの日本人がドイツで“弱小”バスケチームを優勝させた「奇跡の1年」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2022/08/02 17:01
今年9月に行われるW杯へ向けたバスケ女子日本代表候補にも選ばれている安間志織
「フライブルクって国境近くにあって、フランスまでは30分くらいで行けるって聞いてびっくりしました。陸続きって、こういうことなのかって。パスポートのチェックもありませんからね。試合会場はフランス、相手はスイスのチームと聞いてびっくりでしたよ」
渡独してからおよそ1カ月、9月25日にリーグ戦が始まった。開幕してからフライブルクは4連勝とスタートダッシュに成功したが、安間はフライブルクのプレースタイルを変えつつあった。
ドイツで際立ったのは、小柄な安間のスピード、切り替えの早さだった。もちろん、身体能力が高いこともあるが、切り替えの意識が一頭地を抜いていた。
「私、ドイツのリーグでもやっぱりいちばん小さかったです(笑)。でも、日本人って走れるんですよ。ドイツの選手たちは、練習でもコートを一往復すると、すぐにぺちゃくちゃ喋り出すので、それが嫌で。そんな時こそ、“Let’s go!”と叫んで先頭を切って走ってました。最初はキツいみたいなことを言ってたんですが、時間が経つにつれてなんだかんだやってくれるように変わっていきました」
「シオリは何に怒っていたの?」
試合中のテンポも、日本に比べればずいぶんと遅かった。
「ドイツのゆったりしたスタイルは、長年染みついたものなんだと思います。だいたい、どのチームも同じで、試合でも判定に不満があると審判に文句というか、交渉しだすんですよ。だから、ボールのピックアップがどうしても遅くなる。でも、その間に私は別の審判に再開を促して、すぐにオフェンスに移ってイージーなポイントを取ってました」
ドイツのリーグは高さはあったが、速さはなかった。安間はフライブルクに速攻のスタイル、“Run & Gun”を持ち込み、それが成功を収めていた。時間が経つにつれ、フライブルクには希望が見えてきた。
「シーズン最初は、お互いが何をやりたいかが分かってなかったです。でも、チームには“シオリがやりたいと思っていることをやってみよう”という前向きな空気がありました。みんな、翻訳機を使ったり、キーボードに日本語を入れたりして、なんとか理解を深めようとしてくれたんです。練習中に私は結構怒ってしまう事があったんですが、練習後に『何に怒ってたの?』と質問してくれたし」
「高校時代のステップをドイツで伝えてきました(笑)」
フライブルクのコーチ、選手たちはコミュニケーションを諦めなかった。安間もそうだった。その姿勢がチームを徐々に変えていった。シーズンが進むにつれ、フライブルクは優勝を狙える位置につけていた。