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「ドイツでも私が一番小さかったです」英語も全然話せない、身長161cmの日本人がドイツで“弱小”バスケチームを優勝させた「奇跡の1年」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2022/08/02 17:01
今年9月に行われるW杯へ向けたバスケ女子日本代表候補にも選ばれている安間志織
「彼女たちが喋っていると、何を言っているのかまったく分からなかったです。困りました。チームに合流して間もなく、チームバーベキューがあったんですが、フライブルクには海外からやってきた“インポート・プレーヤー”が4人いて、ひとりにつき、ドイツ人の選手がひとり付いていろいろ話す機会がありました。後々になって聞いたんですが、私に付いてくれた選手が『何を話しても通じないんだけど、どうしたらいいんだろう?』と、困ってみんなに相談していたらしいんです」
ポイントガードはチームの司令塔であり、コミュニケーションが命だ。ところが、日本からやってきた新司令塔は英語によるコミュニケーションが十分ではない。このチームはどうなってしまうのか――。
初練習の日「ヤバい人が来た」「もう帰りたい」
全体練習初日、安間には期するものがあった。
日本人の実力を認めてもらえるように、頑張ろう。
安間は全力でダッシュした。
パスのスピード、切り返しの速さ、どれをとっても図抜けていた。
北谷中で、中村学園女子で、拓大、そしてトヨタ自動車で培ってきたものをすべてぶち込んだ。
チームメイトは度肝を抜かれていた。そして、きっとこう思ったはずだ。
「ヤバい人が来た」
ただし、安間にとってみれば失望もあった。
「トヨタは日本のトップのチームです。フライブルクの最初の練習で、レベルが低いことが分かりすぎるほど分かってしまいました。コミュニケーションも取れないし、もう帰りたいと正直、思いました。合流して分かったのは、選手たちは全員がプロというわけではなく、ドイツ人は学生が多く、いちばん年長の大学生が21歳、いちばん若い選手が15歳でした。ドイツだと、学校での部活動ではなくて、町のクラブでプレーするんですよね。学生だけれど、少しサラリーも出るのかな。向こうでは『学生プロ』という言い方をしていました。もらってない選手もいましたけどね」
「やっぱり私が一番小さかったです(笑)」
チームメイトとの関係性を築くのに苦慮する一方、驚かされることも多々あった。
ある日、バスに乗って2時間ほど走り、練習試合に向かった。そこでプレーしてフライブルクに帰って来ると、さっきまで試合をしていたのは、なんとフランスの町だった。