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「ドイツでも私が一番小さかったです」英語も全然話せない、身長161cmの日本人がドイツで“弱小”バスケチームを優勝させた「奇跡の1年」
posted2022/08/02 17:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Yuki Suenaga
「日本の女子なら、海外でも十分に出来る」
かなわなかった東京オリンピックへの出場。
やる気をなくし、無為に時間が過ぎていくなかで、安間志織を動かしたのは、ドイツのフライブルクからのオファーだった。
「トヨタのチームメイトには黙っていたんですが、3、4年前から海外に挑戦したいと思っていました。いま、サッカーやバレーボールでは海外で活躍する日本のプロスポーツ選手って多いですよね。女子バスケでは、日本人は小さいし通用しないと思われがちでしたが、ユニバーシアードやアジア選手権での戦いを見ていると、『日本の女子なら、海外でも十分に出来る』と私自身は思っていて。オリンピックに出られず、そろそろ頑張らないと……と思っていた時に初めて声をかけてくれたのがフライブルクで、タイミングも良かったんだと思います」
ただし、問題もあった。映像でドイツのブンデスリーガの試合を見ると、明らかに日本のレベルよりも低い。そしてサラリーもダウンするのが避けられなかった。それでも、安間は心の底からドイツでプレーしたいと感じた。バスケに対する情熱が、久しぶりに燃え上がった。
「なにもやる気が起きなかった自分自身に対して、挑戦したかったんです。ドイツではいろいろな意味で、条件が悪くなるのは分かっていました。正直、サラリーはダウンどころじゃないほどのダウンでした(笑)。それでも、私としては環境を変えるためにはとてもいいチャンスだと感じたんです。自分のプレーを見てもらうためには、たとえレベルが低かったとしても、そこで結果を出せばいい。ドイツで結果を出せば、その先、さらにチャンスが広がる。ドイツでプレーするのは自分のためでもあるし、日本人のレベルを見てもらえるチャンスになる。自分勝手な思いかもしれませんが、これからの『道』を作りたいと思いました」
「何を話しても通じないんだけど…」
2021年8月、安間はフライブルクへと旅立った。まだ、世界がコロナ禍で大きく揺れていたころだ。
フライブルクは人口20万人ほどの街。大聖堂が有名だ。安間が所属することになったチームは、お世辞にも強豪とは言いかねた。前のシーズンは10勝12敗で7位に終わり、安間はその起爆剤として期待されていた。
将来のキャリアのことも考え、英語を勉強したいこともあり、住居はアメリカ人選手ふたりとのシェアハウス。ところが、コミュニケーションを図るのに苦労した。