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「本当に中垣内が必要なのか」中垣内祐一はなぜ批判されても“外国人コーチ”に実権を握らせたのか? 東京五輪8強の真相「話すのはこれが最後」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byGetty Images
posted2022/07/08 17:02
東京五輪で29年ぶりのベスト8進出に導いた中垣内祐一前監督。多くの困難を乗り越えながらも、自らの意志を貫いた
東京五輪から2カ月後のアジア選手権を終えた9月、中垣内は監督を退いた。在任中は記者からの質問をごまかすことも、逃げることもなく何でも答えてきた。
だが、16年からの代表監督として過ごした5年間を「ここまで話すのは最初で最後」と言いながら、「東京オリンピックという大きな存在がある中、モチベーションコントロールという意味では世界一楽な監督だった」と振り返る。
「代表合宿だけでなく、Vリーグを視察しても、すべての選手が『自分を選べ、選んでくれ』とばかりに懸命のプレーを見せる。でも、その選手たちの中から選ばれるのは12名だけ。この合宿、大会が終わったら外れてもらう、と伝える時はつらいですよ。選手の立場からすれば、この人は俺を認めてくれなかった、と思うわけで、それは本当に腹が立つこと。目も合わせたくないというのが本音だと思います。
誰を選ぶ、選ばないということに関して100人が100人、その通りだ、と思うことはない。けれどチームとしてやるべきバレーボールにフィットする、最善の12人が東京五輪のメンバーであったと自信を持って言えます。批判の声も含め、すべての責任を背負う、ということが代表監督の仕事ですから」
「子どもたちの憧れのステージであってほしい」
代表から離れ、Vリーグも終わり、中垣内自身も少しバレーボールとの距離が開いた22年6月。現在開催中のネーションズリーグを戦う日本代表は、9試合を終えて7勝2敗の堂々の成績を残している(7月7日時点)。イタリア、イラン、スロベニアといった強豪相手に対してもひるまず、サーブで攻め、ブロックディフェンスから流れをつくり、バックアタックも絡めた複数枚数の攻撃を同時に仕掛けるスタイルは健在で、むしろ個々のレベルや質、組織力が高まり、史上初の決勝ラウンド進出(8チーム)が決まった。
BS-TBSで中継したイラン戦では解説を務めたが、「もう自分はただの人」と笑う。今、そしてこれからに向け、最後に託す思いは何か。
「能力が高い選手を確保することはもちろんですが、現有戦力のレベルをいかに高めるかという面で言えば、ミドルも海外に出すべきだと思うし、石川、西田に続く攻撃力も備えたアウトサイド、高いセッターももっと出てきて層が厚くなってほしい。選手だけでなく、指導者もどんどん海外へ渡ってプロの世界の中でもまれてほしいし、そういう人たちがVリーグやアンダーカテゴリーの監督になれるように、指導者の育成も大きな課題です。
高校生や大学生も“代表は遠い場所にあるもの”と思うのではなく、もっと身近なものだと、世界と同じ視野を持った指導者、選手が増えて、Vリーグ、日本代表を盛り上げてほしいし、子どもたちの憧れのステージであってほしい。願うのはね、それぐらいですよ」
描いた未来をブランに、そして選手へ託し、新たな人生を生きていく。
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