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「本当に中垣内が必要なのか」中垣内祐一はなぜ批判されても“外国人コーチ”に実権を握らせたのか? 東京五輪8強の真相「話すのはこれが最後」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byGetty Images
posted2022/07/08 17:02
東京五輪で29年ぶりのベスト8進出に導いた中垣内祐一前監督。多くの困難を乗り越えながらも、自らの意志を貫いた
もう1つ、こだわり徹底したのがアンダーカテゴリーとの連携だ。
ユース(U18)、ジュニア(U20)、ユニバーシアード(U23)と年齢ごとに区分され、指導者もそれぞれ異なる。だがそこも、シニアと連動した上で、日本男子代表チームとして何にこだわりどんな選手を選ぶか。身長の低さなど、それまではネガティブに捉えられていた要素を抱える選手も、チームのスタイルにフィットすると考えれば積極的に選出。むしろカテゴリーの枠を超えてすぐシニアへ入れるのも特別な策ではなく、当たり前にした。
その象徴がセッターの関田とアウトサイドの高橋、オポジットの西田だった、と振り返る。
「関田の身長は確かに小さい(175cm)。ブロックでもマイナスと捉えられ、もっと上を狙うなら大型セッターを起用すべきだという意見もたくさん頂戴しました。でもセッターに大事なものは何か。ブロックよりも正確にアタッカーを活かすセットが上げられるかであり、その点で関田に勝る選手はいない。極端に言えば世界の2mクラスのアタッカーからすれば、日本のセッターの身長が175だろうと190だろうと相手にとっては“小さい”ことに変わりない。それならばセットの能力がある選手を選ぶのは当たり前で、たとえブロックで得点する場面は少なくとも、それ以上にレシーブでの貢献度もあります。
西田と藍もそう。アンダーでは身長の低さや粗さを理由に選出されてきませんでしたが、西田のサーブ、スパイク、藍のサーブレシーブの能力は世界でも証明されています。実際、あれほどサーブに重きを置くことに肯定的ではなかったフィリップが、サーブの重要性を打ち出すようになったのは、西田が入って、彼のサーブを見てからです」
日本代表として世界とどう戦うか。そのための戦術や、必要な技術を明確に打ち出す。いかなる時もサーブで攻め、すべて同じテンポで同時に複数の攻撃を仕掛け、アウトサイド一辺倒ではなくミドル、バックアタックも当たり前に使う。最初からすべてが理想的だったわけではなく、うまくいかないこともあったが、かみ合い始めた19年のワールドカップでは4位という成績以上にどんな相手に対しても「何かやってくれるのではないか」というワクワク感があった。
そして、最もベストに近い形で5年に渡り取り組んできたことの成果が発揮されたのは、まぎれもなく昨夏の東京五輪だった。サーブだけでなくオフェンス、ディフェンスでも相手を圧倒し、堂々と渡り合う男子日本代表の姿に、見る者は胸を熱くした。
東京五輪でベスト8入り「見ていて痺れた」
負けたら終わり、のグループリーグ最終戦。イランとのフルセットに及んだ戦いは監督である中垣内も「見ていて痺れた」と振り返る、まさに激闘と言うべき戦い。最終セットに見せつけた石川の連続サービスエースは、圧巻、の言葉に尽き、まぎれもなく「男子バレーは面白い」とこれからにもつながる希望を感じさせる試合だった。
「選手の努力、5年間同じメンバーで力を尽くしたスタッフの努力。そして何より、フィリップという非常に優れた、きめ細かく、きっちり型にはめるところははめてプレーさせながらも状況判断を要求するコーチの力。(東京五輪の)ポーランド戦を終えた後(敵将のフィタル・)ヘイネン監督が控え室の前で『お前がどんなコーチかはよく知らないけれど、日本は世界一規律正しい素晴らしいチームだ』と言われて、素直に『ありがとう』と言いました」