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「本当に中垣内が必要なのか」中垣内祐一はなぜ批判されても“外国人コーチ”に実権を握らせたのか? 東京五輪8強の真相「話すのはこれが最後」
posted2022/07/08 17:02
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Getty Images
こんな時間は何年ぶりか。
2015年、秋。営業先から帰宅した中垣内祐一は何気なくテレビをつけ、ワールドカップを観戦した。かつては日本代表コーチを務めるも、バレーボールから離れ社業に勤しむ日々。積極的にバレーボールと関わることもなくなってからは、テレビで試合を見る機会も減っていた。
ふと気が向き、数年ぶりに日本代表を見る。そこで感じたのは驚きと、確かな期待だった。
「石川(祐希)、柳田(将洋)、ハイセットからの高いボールをしっかり叩けるサイドの選手が出てきたな、と。これは磨けばもっといい選手になるし、いいチームになる。日本代表が面白くなるかもしれない、と思ったんです」
とはいえ当時はバレーボールから離れた、1人の営業マンに過ぎない。「勝手な願望」に過ぎず、策もなかったが「外国籍指導者が(このチームを)見たら強くなるのではないか」と閃いた。
事態が一変したのは、16年のリオデジャネイロ五輪出場を逃した後だ。
4年後の東京五輪まで日が迫る中、新たな監督を「公募」する形が取られていたが、自国開催の五輪に向けた候補者は日本人のみ。
もったいない。その感情が、思わぬ方向へと導いた。
「自分が監督になって、外国籍のコーチを呼んで強化してもらおう、と。しゃしゃり出て『俺が監督をやりたい』ではなく、自分がならないと海外の指導者にあの選手たちを預けることはできない、という思いでした」
中垣内の頭に浮かんだブランの存在
遡れば1990年代、日本のスーパーエースとして活躍した時代から、諸外国のチームと対戦するたび「日本のバレーは遅れている。時代錯誤だ」とこき下ろされた。当時は「そう言われても何がどう遅れているのかわからなかった」が、自らも指導者となり、JOCスポーツ指導者海外研修事業でアメリカへ赴き、未知の世界に触れ、「日本のバレーに足りないのは選手よりも指導者だ」という思いを強く抱いた。
「日本にも優秀で熱心な指導者はたくさんいます。でも、企業スポーツの体制である以上、現役を離れ、そのままコーチになり、何年かしたら社業に戻るというのが一般的な考えで、プロコーチを生み出す発想は少なかったのが現状です。
じゃあ海外はどうか。何十年もヨーロッパの猛者たちの中でもまれてきたプロの指導者がいっぱいいるわけですよ。そこにどう太刀打ちできるかと言えば、彼らから学ぶしかない。ブラジルやアメリカの指導者とも多く親交がありましたが、日本人の得意なディフェンスをさらに磨き上げ、能力を引き出せるコーチは誰か、と考えた時、浮かんだのがフィリップ(・ブラン)でした」