JリーグPRESSBACK NUMBER

ノーベル平和賞の叔父は「性暴力に苦しむ5万人の女性を救った“闘う医師”」J2徳島の助っ人FWの意外な過去〈幼少期はコンゴ戦争を経験〉 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph byJ.LEAGUE

posted2022/07/04 06:00

ノーベル平和賞の叔父は「性暴力に苦しむ5万人の女性を救った“闘う医師”」J2徳島の助っ人FWの意外な過去〈幼少期はコンゴ戦争を経験〉<Number Web> photograph by J.LEAGUE

6月26日J2第23節・群馬戦で決勝ゴールを決めた徳島ヴォルティスFWムシャガ・バケンガ。欧州4カ国9クラブを渡り歩き、昨季途中からチームに加入した

 前述したように、バケンガはコンゴ時代に初めてサッカーに触れ、プレイヤーの夢を志すようになったが、実はサッカー選手になるよりも大きな夢があった。それは医師になるという道。というのも母方の叔父に、医療に従事するデニス・ムクウェゲというロールモデルがいたからだ。

 もしかすると、ムクウェゲという名前を知る読者がいるかもしれない。というのも彼は2018年にノーベル平和賞を受賞、その人生は『女を修理する男』(15年)、『ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』(21年)という題名で映画化されたからだ。

 映画のタイトルが物語るように、ムクウェゲ医師はコンゴ東部に病院を建て、そこで5万人を超える女性たちを手術してきた。

 彼が女性ばかりを手術してきたのは、武装勢力が入り乱れるコンゴ東部では、日常的に女性への残忍な性暴力が後を絶たないからだ。この地域はスマホやゲーム機器に欠かせないレアメタルの宝庫であり、鉱物資源を支配するには現地コミュニティの女性を暴行することによって、恐怖心を与えることが有効だと考えられている。

 無法地帯といってもいい状況下で、ムクウェゲ医師は幾度も脅迫や襲撃にさらされながら、女性の治療に取り組んできた。一度はヨーロッパに亡命したこともあったが、彼を慕う患者の女性たちが野菜や果物を売ったお金を出し合って、帰国のための旅費をカンパした。

「髪型、ユーモア…叔父さんのマネをしました」

 正義のヒーローといっていいムクウェゲ医師、幼いバケンガ少年があこがれたのも自然な成り行きだろう。

「ヘアスタイルやユーモア、私は多くの部分で叔父さんのマネをしました。コンゴからノルウェーに帰国してからも、週に一度は電話でいろんなことを話したものです」

 弱者の救済に人生を捧げる叔父を見て育ったバケンガは、徳島で充実した日々を過ごしながらも、その一方で胸を痛めている。そう、ウクライナでの戦争とそれにまつわる国際社会の対応についてだ。

【次ページ】 ウクライナ情勢「ものすごく胸を痛めている」

BACK 1 2 3 4 NEXT
#ムシャガ・バケンガ
#徳島ヴォルティス
#デニス・ムクウェゲ

Jリーグの前後の記事

ページトップ