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オシム・ジェフの本質は「考えて走る」にあらず!? 20年前に展開していた“未来のサッカー”とは《オシムに学んだ4人の証言》
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byKyoji Imai
posted2022/06/16 17:01
日本サッカーに多くをもたらしたイビチャ・オシム。ジェフ時代の教え子たちが当時を振り返った
キックオフの笛が鳴ると、ジェフは4分までに3度の決定機を作った。オフサイドの判定に取り消されたものの3度目の決定機ではクルプニコビッチがゴールネットを揺らした。その後の86分間も、ほとんど終始、浦和を圧倒した。
守備戦術はマンツーマンだ。佐藤が言う。
「守備の責任は明確に個人にあって、自分のマーカーにやられて負ければ『お前のせいだ』とはっきり言われました。それについては、オシムさんは本当に厳しかった。浦和戦にもわかりやすいシーンがありますよね。試合終盤、浦和の(田中マルクス)闘莉王が点を取るために前線に上がってくるんだけど、FWの巻さんが何の迷いもなくマークについて下がってくる。そういうことです。あれはベンチからの指示じゃない」
「走ってそれを正解にしちゃえばいい」
攻撃戦術はオシム・ジェフの代名詞として知られる「考えて走る」に集約される。羽生が言う。
「『相手にとって一番イヤなタイミングで、一番イヤなところに走れ』ということを何度も言われました。例えば効果的なサイドチェンジがあって、左サイドの山岸智が1対1の状況になるとする。僕がそのサポートに行こうとすると『違う!』と怒鳴られるんです。『そこは山岸に1対1をやらせて、お前はゴール前に飛び込むほうが相手は怖いだろ!』と」
この浦和戦のジェフは、最終ラインから前線、あるいは相手最終ラインの背後のスペースに向けて何度もロングボールを放り込む。それでいて1本たりとも“ラフ”で“テキトー”に蹴られたロングボールがないと感じるのは、そのロングボールに対して、必ず誰かが反応しているからに他ならない。その光景には、むしろ違和感さえ覚える。
羽生が笑った。
「いや、僕もそう思います。ただ、それが“何となく蹴った”ロングボールであっても、周りが反応して、走ってそれを正解にしちゃえばいいんですよね。たぶん、みんながそういう感覚でプレーしていたと思う」