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「苦しいことばかりで…」決勝で負け続け“辞任も考えた”宇都宮ブレックス・安斎HCがBリーグの頂点に立つまで《優勝記念インタビュー》
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJIJI PRESS
posted2022/06/06 17:00
優勝を決め、比江島慎の肩を抱く安斎竜三HC
“新体制”は「8年間の経験から出た答え」
ただ、今シーズンを迎える前に、決めたことがある。自分を信頼してくれる人たちを、今度は自分が心の底から信じる番だと。
もともと、佐々ACが主に攻撃面を、町田ACが主に守備面を担当するというすみわけがあったが、練習中に具体的な指示を送る作業の大半は、安斎HCが担っていた。
それを、変えた。練習前のコーチミーティングで内容については入念に打ち合せするものの、練習メニューの作成や指示の大半を彼らにゆだねることにしたのだ。
「当初は上手くいかない部分もあり、ストレスも感じました。選手たちも、そのやり方に最初は少し抵抗があったかもしれない。でも、シーズンが進むごとに練習内容がどんどん良くなっていきました。あのスタイルにして悪かったことなんて一つもなかったと思います」
「三本の矢」の話や「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがピッタリの新体制だった。
「僕一人の考えでやれる範囲なんて、狭いし、それだけが正解でもない。彼らが考えたことをやってみて、実際に上手くいくことはたくさんありました。自分だけではなくて3人で考えてやったほうが良いものができる。それが、アシスタントコーチ時代を含めて8年間の僕の経験から出た答えだったんです」
大黒柱が抜ける大ピンチ
安斎は開幕前から自分たちのことを「チャレンジャー」と表現してきたが、これは主力選手が入れ替わり、コーチング体制も新しくなり、組織としての成熟度が低いところから成長を続けてみせるという覚悟の表れだった。
ただ、もう1つ、見逃せない進化があった。
大黒柱のロシターが抜けるという大ピンチがその要因となった。
5年前の優勝を経験している副キャプテンの渡邉裕規は4月初頭にクラブのYouTubeチャンネルで語っていた。
「選手だけで話すことが昨シーズンより増えています。若い選手から、そういう声があがることも増えている。それが成長じゃないかな」
安斎はこう続ける。
「昨シーズンだと、ライアン(ロシター)がベンチでも声を出してくれることで、助けられていた部分がありました。でも、彼が移籍したことで、それぞれの選手が発言することが多くなって、それが良い方向に動いたと思っています」
いつしか、ベテランも若手も関係なく、チームを良くするために口を開ける集団になった。
とはいえ、主力が3人いなくなった影響は、シーズン当初には確かに見られた。開幕節ではB1に昇格してきたばかりの群馬クレインサンダーズに2連敗する前途多難な立ち上がりだった。実際、ブレックスのレギュラーシーズンの成績は22チーム中6位だった。
全敗だった琉球にファイナルズで勝てたワケ
ところが、プレーオフにあたる、2戦先取のチャンピオンシップ(CS)へ進むと、準々決勝と準決勝をアウェーで戦ったにもかかわらず、ファイナルズまで6戦全勝で頂点に立った。
これは、彼らが失敗から学び、成長できる組織だった証拠に他ならない。
実は、琉球ゴールデンキングスとのファイナルズでも失敗から学んだ成果が表れていた。レギュラーシーズンで2戦全敗の相手だったが……。