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「苦しいことばかりで…」決勝で負け続け“辞任も考えた”宇都宮ブレックス・安斎HCがBリーグの頂点に立つまで《優勝記念インタビュー》
posted2022/06/06 17:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
JIJI PRESS
Bリーグ初代王者になってから5年、宇都宮ブレックスが再びティファニー社製の黄金のトロフィーを手にした。
だが、1年前には、違う運命をたどる可能性があった。
「オレが辞めるべきタイミングなんじゃないか」
ヘッドコーチ(HC)を務める安斎竜三はそう考えていた。チームを勝たせるために力を抜いたことなどないが、心身ともにかなりのダメージがたまっていることに気づいていた。
安斎は2017-18シーズンの途中にHCに就任してから、プロアマ混合で日本一を決める天皇杯の決勝で2回涙を飲んでいた。昨季は就任4年目にして初めてBリーグのファイナルズに届いたが、千葉ジェッツに敗れてしまった。
日本バスケの主要大会の決勝で、3回続けて負けたのだ。HCとして責任を感じた。
「オレは一生、優勝できないコーチなのかもしれない。それなら……」
辞任まで考えた安斎が、再び戦うことを決意した理由
ファイナルズ後に宇都宮へ戻るとすぐに、鎌田眞吾GMに声をかけられた。
「今シーズンもお疲れさま。まずは食事に行こう。いつ、空いている?」
2人は、かつて日本リーグに所属していた大塚商会バスケットボール部の先輩と後輩の関係にある。2007年、ブレックスの初年度の選手である安斎は、創設期のフロントスタッフになった鎌田と再び顔をあわせた。ブレックスの歴史を作ってきた同士。だから、シーズンが終わったタイミングで食事へ行くのはごく普通のことだ。
今になって思えば、長い付き合いのある鎌田は、安斎の責任感の強さと、それに伴うダメージを感じ取っていたのかもしれないのが……。
お店に着いて間もなく、こう言われた。
「来シーズンも、ヘッドコーチとして頑張ってくれるだろ?」
思わぬ先制攻撃だった。そのあとに安斎が胸の内を明かしても、鎌田は怯まなかった。
「竜三が就任してからの4シーズンで、決勝を戦ったのが3回。むしろ、このペースでそこまで登りつめているなんてすごいことじゃないか!
頑張り続けていれば、オマエの手腕があれば、優勝するチャンスは必ず来る。あきらめるにはまだ早いんじゃないか?」
ほどなくして町田洋介と佐々宜央の2人のアシスタントコーチ(AC)からも声をかけられた。
「来シーズンも一緒に頑張りましょうよ!」
昨シーズンまで主力としてチームを長年引っ張ってきたライアン・ロシターやジェフ・ギブス、加入1年目とは思えない活躍を見せていたLJ・ピークが移籍することを正式に知らされたのはその後だった。
新シーズンは簡単な戦いにはならないだろう。それでも、仲間たちがそこまで想ってくれるのなら……。もう一度、ファイティングポーズをとることにした。