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那須川天心vs武尊“衝撃のフジテレビ撤退”が想起させる「PRIDE消滅」の悲劇… いまや「格闘技はPPVで見る時代」なのか?
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2022/06/04 06:01
「THE MATCH 2022」の実行委員を務める榊原信行氏は、5月31日の記者会見でフジテレビに「戻ってきてほしい」と訴えかけた
PRIDE消滅につながったフジテレビの撤退
報道から撤退までのスピードの違いこそあれ、歴史は繰り返すものなのだろうか。振り返ってみれば2006年6月、フジテレビは「契約違反に当たる不適切な事象が(PRIDEの運営会社である)DSEで起きている疑惑が強まった」として、PRIDEからの完全撤退を表明。当時もフジテレビは、DSEに交渉の余地を与えなかった。具体例こそ出さなかったが、フジテレビが指摘した不適切な事象とは、週刊誌が報じた「反社会的勢力との関係」に端を発するコンプライアンス違反だった(DSE側は疑惑を否定)。
フジテレビのPRIDE撤退は格闘技界に多大なるダメージを与えた。地上波放送がなくなったことで資金繰りは悪化、世間への影響力もなくなり、2007年3月、DSEはUFCを運営するズッファ社のオーナーに興行権を譲渡することを発表。旧K-1とともに格闘技ブームを牽引したPRIDEは、あっけなく消滅してしまった。
PRIDE消滅後、日本ではDREAMや戦極といった新たな格闘技イベントが旗揚げされたが、世間を巻き込むような大きな流れを作ることはできなかった。その最大の理由は、地上波放送による露出の機会が著しく減少したからだろう。だからこそ、2015年12月の旗揚げ時からフジテレビによる放送をとりつけたRIZINは格闘技界の救世主に映った。仮に今回もPRIDEのときと同じ過ちを繰り返していたならば、残念の一言では片づけられない。
PRIDEや旧K-1興隆の前にも、プロレス以外の格闘技が世間を賑わしたことがある。1970年代、一時は地上波4局が争うように放送していたキックボクシングだ。
隆盛をきわめたキックがなぜ衰退したかといえば、週4回のレギュラー放送という露出過多によって飽きられるのも早かったのではないか、と推測される。70年代の新興スポーツとしてもてはやされたボウリングも、同様の理由で衰退していった。