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今年読んだ本で圧倒的ナンバーワン…米エンタメ界における性暴力の実態をスクープした“正直、読むのが苦しい”傑作
posted2022/05/24 11:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
昨年読んだノンフィクションのナンバーワンは、鈴木忠平さんの『嫌われた監督』だった。
そして今年はまだ5月の段階だが、ローナン・ファローの『キャッチ・アンド・キル』を超える作品はなかなか出てこないだろうと予想する。
この作品は、アメリカ映画界の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクシャル・ハラスメントを追及し、「#MeToo」ムーブメントの起爆剤となり、ローナンはこの仕事によって2018年にピューリッツァ―賞を受賞した記念碑的作品である。
今年の暫定ナンバーワン。現状では、圧倒的と言っていい。
ローナンは、いわゆるセレブの息子である。父は映画監督のウディ・アレン、母は女優のミア・ファロー。アレンは私にとって重要な映画作家だったが、養女への性的虐待の疑惑が報道され晩節を汚した(ローナンは母とのつながり、そして父から虐待を受けた姉との絆が強いことを作品のなかで明らかにしている)。
1987年に生まれたローナンだが、彼は紛れもない「天才」だった。飛び級を重ね、11歳で大学課程に入学し、15歳でバード大学を卒業した。そして19歳でイェール大学ロースクールに入学を認められ、のちにローズ奨学生としてオックスフォード大学でも学んだ。
卒業後のキャリアのスタートは国際関係の仕事から。そして、国務省勤務などを経てテレビ報道の世界に転身し、MSNBCで自らの名前が入る冠番組のアンカーになった。
その彼が、なぜこの作品で「#MeToo」のムーブメントを大きくドライブさせたのか?
トラップ、裏切り…ワインスタイン側の妨害工作
ローナンはMSNBCとの契約が切れたあと、NBCの報道局に勤務する。そこでワインスタインのスキャンダルにぶち当たったわけだが、被害者の告白を引き出すためのアプローチには報道現場の生々しさが表現される。心強い同志も職場にいるが、いつしかワインスタイン側からの反撃に出くわす。
妨害工作だ。