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坂本勇人がいなくなると急にミスが…巨人は主力と控えの「守備格差」をどう埋める? 《30年前に目撃した“ホテル廊下”での特訓とは》
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/05/07 11:02
昨年、田口麗斗投手とのトレードでヤクルトから巨人に入った廣岡(32番)。坂本に匹敵する守備力をつけることはできるか?
宮本慎也さんに弟子入りした坂本
坂本だって一朝一夕に今の守備力を身につけたわけではない。守備が上手くなりたくて宮本慎也さんに弟子入りして、それこそ守備というものへの向き合い方から再構築したからこそ今がある。岡本にしても、吉川にしても高橋由伸前監督時代に井端弘和コーチの下でグラブの出し方から足の運び、スローイングへの入り方などを徹底的に仕込まれて上手くなっていった。
もっと古い話では藤田元司監督時代にこんな光景を目撃したことがある。
ある遠征地で藤田監督に呼ばれて試合後の宿舎を訪ねた。エレベーターを降りてマネジャーの案内で廊下を進むと、そこで試合から戻った選手が練習をしていたのだ。当時の内野守備コーチだった江藤省三さんが、廊下の絨毯の上に丁寧にボールを転がす。それを川相昌弘や勝呂博憲、鴻野淳基ら若手内野手が素手でステップを使いながら捕球してスローイングの動作まで反復練習していた。
「ゴロ捕球の基本的な動きを反復練習するのに、ホテルの廊下の絨毯はちょうどいいんだよ」
江藤さんはこう語って片目を瞑ってウインクしてみせた。別にホテルの絨毯でなくてもよかったのだと思うが、それが試合を終えて戻ったホテルで選手を練習に引っ張り出す口実だったのだろう。
基本ができていないのに、ノックを受けても何の進歩もない
いずれにしても固い板の間やコンクリでもなく障害物もない絨毯の上は、あたかも芝生のようではある。そこでボールを転がして、そのボールに入っていく角度と足さばき、しっかり腰を下ろして左足の前で下から素手で包み込むようにボールをつかむ。そういう練習を試合が終わった遠征先のホテルでもしていた。
基本の基の字の反復練習。実はこの練習を以前にも見たことがあった。
それはまだ黄金期を迎える直前、1982年の西武ライオンズの宿舎でだった。そのときボールを転がしていたのは、やはり守備コーチの近藤昭仁さんだったが、選手の動きを手取り足取りで指導していたのが、当時の監督の広岡達朗さんだった。
実は江藤さんも広岡さんの薫陶を受けた指導者の1人で、おそらくこのホテルの廊下での守備指導というのは広岡さんの発案だったのだと思う。
守備は練習すれば上手くなれる。ただ基本ができていないのに、ノックを受けても何の進歩もできない。だからこそ広岡さんは体に染み込むまでホテルの廊下でボールを転がし続けたのだろう。
巨人の二遊間の控えには廣岡や若林だけでなく湯浅大内野手や中山礼都内野手らが“後継候補”として控えているが、坂本レベルの守備に辿り着くのは一朝一夕の道のりではないだろう。そんな練習を地道にどうやり切るかしか道はないのだ。
藤田監督時代にこんなことがあった。