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野球クロスロードBACK NUMBER
近江・山田陽翔のセンバツ激投を“兄・優太”はどう見た? 母校の大阪桐蔭か、弟の近江か…決勝後届いたLINEに「そっとしてあげようって」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/05/06 11:04
今年のセンバツ、見るものの胸を打った近江・山田陽翔の激投。弟の姿を、兄・優太(大阪桐蔭→日体大/3年)はどんな心境で見ていたのか
「体の開きが早いな」「スイングの始動が若干、遅いかも」。真面目な弟の性格上、技術的なことを細かく指摘すると意識しすぎてしまい、初球から攻める姿勢や思い切りのいいスイングといった持ち味が失われかねない。ピッチャーとしてはソフトバンクの千賀滉大を目標とし、時間が許す限り動画サイトを視聴しているというが、同じポジションであっても「ホンマ好きやなぁ」と見守る程度。探求心の強い弟が進むべき道を尊重している。
悩む弟に優太が言ったこと
ただし、悩みであったり、人間の琴線に触れる部分となると別だ。兄として、年長者として弟の想いを汲み取り、助言する。
今年の正月休みのことだ。実家に帰省した兄は、弟から苦悩を打ち明けられた。
「チームがまとまらないんだけど、どうしたらいいんかな?」
エースで4番バッターのキャプテン。近江の重責を背負うことでの懊悩は、経験した者にしかわかりえない。だが、兄も似たような道を経てきた。大阪桐蔭という名門でプレーする覚悟。勝利しか許されない重圧。他者を納得させるためには、結局のところ生き様で訴えかけるしかないことを知っている。
だから兄は、回りくどい言葉を用いずシンプルに弟へ伝えた。
「『まとめよう』って考えるんじゃなくて、プレーだったり、野球の取り組みとか、背中で引っ張っていったらいいんじゃないかな」
野球に対してどこまでも一途な弟が迷わぬように。無理に背伸びをさせぬように。兄の言葉は篤実でいつも真っ直ぐだった。
1月にセンバツの代表校に選ばれなかった際も、飾らずに前を向かせた。
「まだコロナとか大変やし、何が起こるかわからないから。可能性を信じて、お前が背中でチームを引っ張っていけよ」
こんな趣旨のメッセージを、兄は何度も送った。だから、代替出場が決まった時にはもう、弟に多くを語る必要はなくなっていた。
「おめでとう。頑張れよ」
兄弟が信じ、実現したセンバツで、弟は生き様を見せた。
傷つきながらも闘いの灯を消さず、求心力となり続けたその姿に近江の監督は泣き、甲子園のファンが手を叩いて賛辞を届けた。
決勝後に届いたLINE…「そっとしてあげようって」
言うまでもなく、兄もそのひとりだった。