弟は周囲の心配すら背負い、投げる。

「自分はプレーでしか引っ張っていけないんで。エースで4番でキャプテンとして、自分がマウンドを降りてしまえばズルズルいってしまうんで、『心が折れてはいけない』と思いながら投げていました」

　延長11回、170球。弟の気力と粘投は報われた。サヨナラホームランで勝利した近江は、センバツでは初の決勝戦まで勝ち進んだ。

©Hideki Sugiyama

母校の大阪桐蔭か、弟の近江か

　日本一をかけた大舞台の相手は、奇しくも兄の母校である大阪桐蔭だった。最初は複雑だったが、「どっちが勝っても喜べる」と思えば純粋に両チームを応援できた。

　惜しむらくは弟のパフォーマンスで、前日の試合から満身創痍だった近江の大黒柱は、先発マウンドに上がったものの序盤でノックアウトされた。チームも大差で敗れたが、兄は結果を受け入れることができたという。

「準決勝から頑張り過ぎたかなって。でも、本当にすごいなって素直に思いました」

　兄の嘆息には、敬意があった。

「あそこまで根性があるなんて思っていなかったんで。正直、びっくりしました」

弟はとにかく負けず嫌い…SNSでアドバイスも

　優太にとって陽翔の人間性は、実質的に彼の小学時代で止まっていた。

　年齢は3歳差。兄が中学生になってからもずっとキャッチボールをするほど仲が良かった。当時から弟は野球には真面目で、とにかく負けず嫌い。だからといって、私生活から感情を極端に表すようなことはなかった。

　兄が大阪桐蔭に入り寮生活を始めると、弟とのコミュニケーションは激減した。話す機会と言えば年末年始に帰省した時くらいだったが、兄も束の間の休息で自分の時間を優先していたためずっと一緒ではなかった。

　兄弟の距離が再び縮まったのは、兄が大学に進学してからだ。スマートフォンを所有できるようになったことで、頻繁ではないがSNSなどを通じて弟とのやり取りも増えた。

「バッティング、どんな感じだと思う？」

　このような客観的な意見を求められれば、自分が感じたことを伝えた。

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