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野球クロスロードBACK NUMBER
近江・山田陽翔のセンバツ激投を“兄・優太”はどう見た? 母校の大阪桐蔭か、弟の近江か…決勝後届いたLINEに「そっとしてあげようって」
posted2022/05/06 11:04
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
日体大の山田優太は悶えていた。
中学時代に出せていた140キロのストレートを投げられない。大阪桐蔭では内野手に重きを置き、スナップを利かせた正確なスローイングを身に付けたことでボールの回転数は増し、球質が格段によくなった感触はあった。しかし球速は戻らぬままで、高校での最速は138キロ止まりだった。
大学で再びピッチャーに挑戦しようと決意したのは、大阪桐蔭の橋本翔太郎コーチが日体大の出身で、大学の後輩にあたり中日でもプレーした辻孟彦コーチを「ピッチャーの指導力がある」と勧めてくれたからだ。自らの歩みは肯定している。それだけに、かつては投げられていた140キロを3年生になろうとしても計測できず、焦燥感を抱きつつあった。
越えた壁…「弟(陽翔)に刺激を受けて」
今年の春先。その壁はあっさりと破られた。
地道な練習、技術の積み重ねは背景として当然あるだろう。しかし山田は、大きな要因を精神面だとはっきり言った。
「弟に刺激を受けて。『練習を頑張ろう』って、今まで以上に意識を高めてやっていたら、140を超えて142って数字が出ました」
兄に影響を与えた弟、山田陽翔(はると)はセンバツで力を全国に知らしめ、脚光を浴びた。
新型コロナウイルスによって出場辞退を余儀なくされた京都国際の代替出場ながら、近江のエースで4番バッターのキャプテンは「甲子園に出るつもりでずっと練習してきました」と、初戦から延長13回を投げ抜き、準備を怠らなかったことを証明してみせた。
準決勝の死球後は「ホンマに行けるんかな」
弟が試合で投げるたびに、兄の心が震える。
浦和学院との準決勝では、甲子園に立つ弟が、まるで別人かと錯覚するほどの気迫を見た。
5回の打席で左かかと付近に死球を受け苦悶の表情を浮かべ倒れ込みながら、直後のマウンドからも腕を振り続けた。終始引きずっていた左足に苦痛が表れていた。
「ホンマに行けるんかな……このまま投げても大丈夫なんかな?」
兄が斟酌する。