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“高圧的なコーチ”だった女子バスケ代表・恩塚亨HCを変えた1枚の集合写真と本800冊…選手が能力を発揮するための3つの軸とは? 

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宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

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posted2022/04/28 17:00

“高圧的なコーチ”だった女子バスケ代表・恩塚亨HCを変えた1枚の集合写真と本800冊…選手が能力を発揮するための3つの軸とは?<Number Web> photograph by JBA

トム・ホーバスの後任として、バスケットボール女子日本代表の指揮を執る恩塚亨HC

 2020年の9月、もうひとつの転機があった。

 リーグ戦の日本体育大学戦でのことだった。その時は、このままでいいのだろうかと疑問を持ちながらも、まだ理詰めのコーチングをしていた。理論的に勝てる方法を伝えて、選手がその通りにやれば、試合にも勝てるはずだという考え方だ。

「『こうやって、こうやって、こうやったら、こうなるよね。このシュートを何%決めたらだいたい勝つよね』『こうやって、こうやって、こうやって守ったらここが狙いどころだから、ここを抑えたら相手は行き詰まるよね』と、かなりロジカルに言ってやらせていたんです。でも言わないとやらないし、それをやったとしてもそれしかやらないんです。

 でも、バスケットボールは(一回のプレーで止まることなく)続くじゃないですか。だから、いちいち息ついて『はぁ』ってなったり。僕も、もぐら叩きしているみたいに『ほら、ほら、ほら、ほら』って(苦笑)。あげくの果てにテクニカルファウルも吹かれてしまった。そんな自分としては不本意な試合をしてしまったんですね。選手も楽しそうじゃないし、自分もイライラしている。そこまでして登っているこの山は何なんだろうなと……」

 このやり方だと限界があるという現実を突きつけられた。本などから自分なりに導きだした方法を試すときが来たと思った。4連覇を狙うインカレまで3カ月と迫った中での大きな決断だった。

「変えるのは怖かったですね。そんなことでは勝てなくなるよって言われたこともあるんです」

 しかし、一方では「変わらなければ勝てなくなる」と思っていた。だから、怖くても、不安があっても、変わることに踏ん切りがつけられた。

選手に促した“夢”の視覚化

「どんな自分になりたい?」
「どんなチームになりたい?」

 恩塚は、選手たちに向かって、積極的にそんな問いかけをするようになった。それぞれの夢を視覚化させるためだ。

 と同時に、恩塚自身も、どんな自分になりたいかということを、それまで以上に考えるようになった。

 恩塚はコーチになってから常に夢を持ち、志高くやってきた。トップレベルで教えたいと大学の部を一から作り、そのチームを強くすることで、日本一のチームのHCになった。バスケットボールに関わる限りは日の丸をつけて試合をしたいと、自ら売り込んで、対戦相手の分析をするビデオコーディネイターのポジションを得て、それが今のヘッドコーチ職に繋がっている。

「ワクワク」を考え始めた恩塚は、どんなコーチになりたいか、ひいてはどんな人間になりたいかということを、さらに深く考えるようになった。そして、そのことで自分が「ワクワク」して、楽しくなっていったのだという。

 そんな恩塚の姿が、選手たちにも変化を与えた。

「選手たちは、僕自身が楽しそうに変わっていっているのを見て、自分も変わりたいなと思ったって言っていたんですよ」

【次ページ】 「私、レブロンみたいになります」

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