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日々是バスケBACK NUMBER
“高圧的なコーチ”だった女子バスケ代表・恩塚亨HCを変えた1枚の集合写真と本800冊…選手が能力を発揮するための3つの軸とは?
posted2022/04/28 17:00
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph by
JBA
「ワクワクが最強」
一見、どこかの遊園地の宣伝文句のようなスローガンを打ち出して、新しいタイプのチーム作りをしようとしているコーチがいる。
夢を持ち、なりたい自分を思い描き、ワクワクするような気持ちを持って試合をすることで、最大限の力を引き出そうというのだ。厳しい規律のなかで、厳しい練習を重ねることで最強のチームを作ることができるという従来型のコーチングとは正反対の考え方だ。
そんなスローガンを打ち出したのは、バスケットボール女子日本代表チームを率いる恩塚亨ヘッドコーチ(42歳)。バスケットボール女子代表といえば、東京オリンピックでは前任のトム・ホーバスHC(55歳)のもとで銀メダルを取り、注目を集めたチーム。恩塚も同チームのアシスタントコーチを務めていた。大会後にホーバスが男子代表HCに就任した後を引き継ぎ、HCに昇格した。
それにしても、小学生に向けてならともかく、なぜ日本代表として世界で戦う選手たちに「ワクワク」という要素を持ち込もうとしているのだろうか。
「そんなんで、勝てると思っているのか?」
実は、恩塚自身、以前は「高圧的なコーチ」だったのだと言う。
高校のときにコーチを目指そうと決め、筑波大学卒業後すぐに高校コーチに就任。その後、もっと本気でバスケットボールに取り組む選手たちを教えたいと、東京医療保健大に女子バスケットボール部を作り、ヘッドコーチに就任した。それだけコーチという職業に熱意を持っていて、自分なりに理論を学び、先輩コーチたちを見て学び、こうやれば勝てるという考えを持っていた。勝てるチームを作るためには、厳しさが必要だと考えていた。
たとえば、推薦で入ってきた選手のひとりが、髪を金色に染めていたとき、あるいは1日2回も練習することに不満を言う選手がいたときには、「お前、そんなんで勝てると思っているのか?」と怒ったりもした。
「甘ったれるなっていうような責め心的な部分があった。選手たちに勝つことの大変さを思い知らせなければならないと思っていました」
勝つためには、厳しい練習を乗り越えなくてはいけないと思っていた。選手に厳しく言えるのがいいコーチだと思い込んでいた部分もあった。恩塚自身が見てきたコーチたちの大半が、そういった指導をしている人たちだったからだ。
「逆にそれが言えないコーチは信念がない、愛情がないという世界。そんな間違った思い込みもしていたと思います。自分自身も駆け出しで、なんとかしたいと思っているときに、まわりの人たちがみんなそうだったから、この波に乗り遅れて行っちゃいけないような感覚はあったかなと思いますね」