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「去年の僕は木の根っこがない状態でした」上茶谷大河25歳が振り返る“プロ生活”…なぜ4年目で“怪我リスクの高いフォーム”に戻すのか?
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2022/04/25 11:01
4月16日のヤクルト戦(横浜)で自身初となるマダックスを達成したDeNAの上茶谷大河投手。プロ4年目の25歳はどんな思いで“勝負の1年”を迎えたのか
宜野湾キャンプでベイスターズOBの“ハマの大魔神”こと、フォークを絶対的な武器としていた佐々木主浩氏からアドバイスをもらう機会があり、これが非常に参考になったという。
「通常フォークは手首をロックしたまま腕を振り抜けと言われますが、佐々木さんは“手首を使う”という表現をされていて、新しいなって思ったんですよ。トライしてみるとすごく投げやすい感覚があったので、これはいけるぞって」
4年目で悟った「フォームは意図的に変えるものではない」
プロ4年目の気づき――。
ルーキーイヤーは7勝を挙げ周囲の期待に応えたが、2年目は右肘の炎症もあり2勝、3年目はフォーム固めで苦しみわずか1勝に終わってしまった。昨年の夏には東洋大時代の同僚であり、怪我で苦しんでいたソフトバンクの甲斐野央から連絡を受け意見交換をしたり、また最新機器から得られる自分の投球データを積極的に分析するなど知識は増えた。が、結果には直結しなかった。
そこで上茶谷が昨オフから試みたのが“原点回帰”である。フォームを大学時代、入団1年目の形に戻すこと。上茶谷はこの数年、リリース時に肩から手までがほぼ一直線になる“シングルプレーン”で投げてきたが、以前は肘が曲がり肩と肘が異なる軌道を描く“ダブルプレーン”で投球をしていた。一般的に“ダブルプレーン”は肘への負担が大きく故障のリスクがあるという見方をされているが、そこは上茶谷もプロに入ってから常に言われてきたことであり十分に理解している。
「リスクがあるのはわかっているのですが、フォームというものは意図的に変えるものではなく、体が変わっていく過程で自然に変わっていくものだと思うんです」
幼少期から自分で積み上げてきた投げやすい自然なフォーム。単に故障を回避するために迷い、自分にとって不自然なフォームで投げてしまい逆にコンディションを崩していては本末転倒だ。
「自然な投げ方を追求していくことができれば、結果的に“シングルプレーン”になっていくんじゃないかと思っているんですよ。よりシンプルに。そういう意味で去年の僕は木の根っこがないような状態でした。けど今はそれがあることを実感しています」
力強い言葉。上茶谷から確信と自信がみなぎっていた。
“仕事ができなかった”2年間も「失敗だとは思ってはいない」
「ハマっている感覚はありますし、これまで積み重ねてきたことが繋がっているようにも感じます。上手く行かない時期もたしかにありましたが、決して失敗だとは思ってはいないんです。その経験がなかったら今のような考えには至らなかったでしょうし、だから必要な時間だったんだって」
過去2年間を上茶谷は「まったく仕事ができなかった」と振り返るが、新たな自分を確立するためには不可欠な時間だった。だが、もう結果を出さなければいけないタイミングだ。そんな危機感があったからこそ開幕はブルペン待機でも不満はなかった。チームの勝利に貢献できれば、どんな場面でも投げることはいとわなかった。結果的に開幕投手の東克樹が指先のアクシデントで登録抹消されたことで先発のチャンスが訪れ、上茶谷は首脳陣の期待に見事応えてみせた。
「ただ本当に、これからだという気持ちのほうが強いですね。この間は結果的に抑えられましたが、ひとつ歯車が狂えば大量失点してもおかしくはなかった。だから課題は出力の維持になりますね。最後まで投げ切る強さ。後半苦しくなってフォームが前に突っ込んでしまったり、そういう弱さが出てしまうとすべてに影響してしまう。しっかりと最後まで投げ切れるようにしたいですね」