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「手応えはないです」カープの8番打者・上本崇司31歳が“つなぐ野球”で絶妙に効いているワケ<鈴木誠也が抜けてキーマンに>
posted2022/04/25 06:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Sankei Shimbun
言葉がなくても、人を動かすことはできる。セ・リーグペナントレース序盤、広島は「つなぎの野球」で下馬評を覆す好発進を見せた。2020年から佐々岡真司監督が言い続けてきた中で確立できなかった形は、絶対的な存在だった鈴木誠也という主砲が抜けたことがチーム全体に「つなぐ野球をやらないといけない」というメッセージになって、達成されたように感じる。
そんなチームの先導役のように、進むべき方向を照らしたのが上本崇司だった。
明治大学を経て、鈴木と同じ12年のドラフトで、鈴木に次ぐ3位で広島に入団した。年齢も選手としてのタイプも違う。プロで歩んできた道のりもまた違う。10年目の今年、プロ入り後初の開幕スタメンに名を連ねた。
スポットライトを浴びる選手をずっとそばで見てきた。1年目で一軍デビューを果たしたが、レギュラー争いに加わることはできなかった。二軍ではスタメン出場しても、一軍では代走や守備固めのポジションを狙う立場。当時は一軍に切り札的存在だった木村昇吾がおり、チーム状況で一軍に昇格することはあっても、なかなか定着はできなかった。
気付けば「守備走塁の人」というイメージがついていた。長所であることに変わりはないが、レギュラー獲りのためにはそのイメージを変える必要がある。
イメージを覆す作業は、ゼロからのスタートよりも大変だ。
それでも一軍である程度の地位を築き始めた3年前の春季キャンプ。まだ調整初期段階のシート打撃でただ1人、最後まで打席が与えられなかったことがあった。経験のため参加しているような若手でも打席が与えられた中での扱いに、普段はあまり感情を表に出さない上本が珍しく、怒りのような悔しさを体全体から放ちながら球場を後にした姿が印象に残っている。
プロである以上、誰もがスタメンの座を狙っている。役割を受け入れ、責任を感じつつも、どこかで「見返してやる」という気持ちを胸に秘めていたのだろう。
恐怖の「8番」打者
シーズンでのスタメン出場はすでにキャリアハイを大きく更新した。打席で見せる粘りと執念、つなぎの意識は、調子を落とすチームに無言のエールを送っているようにすら感じさせる。
試合数だけではない。常に8番の出場ながら、四球の数は巨人坂本勇人、ヤクルト村上宗隆、ヤクルト山田哲人に続き、リーグ4位の12個を選ぶ(4月21日時点。数字は以下同様)。打順は下位ながら、得点数も巨人坂本や丸佳浩らと並び、リーグ7位の12得点をマークする。打率は開幕直後の数字から大きく落とした中で、出塁率はリーグ6位の.408だ。