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「手応えはないです」カープの8番打者・上本崇司31歳が“つなぐ野球”で絶妙に効いているワケ<鈴木誠也が抜けてキーマンに> 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph bySankei Shimbun

posted2022/04/25 06:00

「手応えはないです」カープの8番打者・上本崇司31歳が“つなぐ野球”で絶妙に効いているワケ<鈴木誠也が抜けてキーマンに><Number Web> photograph by Sankei Shimbun

3月29日の阪神戦で3四球を選び、サヨナラのホームを踏んだ上本(左)と、サヨナラ打を放った西川

「8番上本」が絶妙に効いている。

 開幕から22試合連続1番出場の西川龍馬がリーグ2位タイの14打点を挙げているのは、8番上本のチャンスメークがあってこそだろう。4月20日巨人戦でも5回1死走者なしから四球を選んだ上本が、1番西川の2ランで先制のホームを踏んでいる。

 13日のヤクルト戦は1打席目から三塁失策、死球、死球と3打席続けて塁に出て、9番投手床田寛樹の犠打で進塁後、2度本塁に帰ってきた。投手にしてみれば、脚力のある上本ならば完璧なバントじゃなくてもなんとかしてくれる、と気持ちが楽になる効果もある。

 2死走者なしで打席を迎えても、簡単に終わらない。出塁して投手まで打席を回すことができれば、次の回は1番からの好打順となる。スポットライトが当たらない仕事が、「つなぎの野球」のリズムを良くしている。好成績だからといって打順が上がらない理由も、簡単にスタメンから外れない理由もそこにある。

プロ10年目の境地

 今年は多くスポットライトを浴びている。ただ、どれだけスタメン出場を続けても、お立ち台に上がっても、称賛されても、上本は謙虚なままだ。

「手応えはないです。考え方じゃないですか、打席での。慌てなくなりました」

 自己評価はいつも厳しい。守備、走塁について聞いてもそうだが、打撃に関してはあまり多くを語ろうとしない。

 打撃についてはかつて、胸を張ってこう言っていたことがある。

「あのときは調子が良すぎて、どんな球でも打てる感覚がありました。あのときはつかんでいました。何でも打てると」

 “あのとき”というのは、広陵高3年夏のことだ。甲子園1回戦高知高戦では4安打2打点。敗れたものの、続く横浜高戦では先頭打者本塁打を含む2安打2打点をマークした。

 しばらくは“あのころ”を追いかけていたかもしれない。ただ、大学を経て、プロ入りし、新たな選手像を作り上げてきた。喜びはほんの一瞬。苦しみや悔しさを胸に、歯を食いしばり研磨された技術、精神力は独自の輝きを放つようになった。

 プロ野球人生も、ペナントレースもいいことばかりは続かない。数字上は好スタートした広島も実は連勝と連敗を繰り返している。これだけ試合に出続けることが初めての上本にとっても踏ん張りどきだろう。その姿をベンチで見つめる若手に示してもらいたい。歩んできた野球人生のように、地道な作業をコツコツと続けていくことで活路は見いだされる、と——。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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