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甲子園の風BACK NUMBER
《甲子園が落胆するほどの圧勝》大阪桐蔭は、高校野球史上最強のヒールなのか「勝って当たり前と思ってもらうのは…」
posted2022/04/02 17:04
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Nanae Suzuki
甲子園名物の1つ、独特のイントネーションで決勝戦のスタメンがアナウンスされる。近江の最後のメンバーが響いた時、拍手が沸き上がった。
「9番、ピッチャー山田くん」
1回表、守備に就く近江ナインのアナウンスでも同じだった。まっさらなマウンドに立った近江のエース山田陽翔への拍手が聖地に反響したのだ。
近江の山田は決勝までの全4試合に完投している。前日の準決勝では左足に死球を受けながら延長11回を投げ抜いた。その起用には賛否両論がある。だが、山田の姿が観客を惹きつけているのは事実だった。
対峙する大阪桐蔭は準決勝で2試合連続の2ケタとなる13得点で大勝。昨秋の明治神宮大会で優勝した実力通り、圧倒的な力で勝ち上がってきた。憎たらしいほどの強さに、ある雑音も聞こえてくる。
「全国からうまい選手を集めれば勝つのは当然」
大阪桐蔭のスタメンに地元出身選手は4番・丸山一喜だけ。一方、近江は6人が滋賀出身。中学時代から有名だった山田は「地元の高校で全国制覇したい」と強豪校からの誘いを断って近江に進学した。
近江に漂う“昭和のロマン”を投打でねじ伏せた
時代は令和になっても、高校野球ファンは“昭和のロマン”を捨てきれない。
痛みや疲労に耐えてマウンドに立ち続ける地元育ちのエース。スタンドも味方に付ける山田はヒーローであり、大阪桐蔭は“ヒール”。試合の構図は固まっていた。偶然か運命か、大阪桐蔭の先発は滋賀出身の前田悠伍。マウンドで“逆風”を感じていた。
「近江の応援の方が大きいと思っていましたが、自分が応援されていると捉えて投げました」
「強いチーム」が「負けないチーム」と同義であれば、今の大阪桐蔭は過去最強かもしれない。
他のチームならエース級の計算できる投手が複数人いる。巨人・中田翔や中日・平田良介のような桁外れの打者はいないが、攻撃も守備も隙がない。相手のミスを見逃さない。決勝もチームのスタイルを貫いた。
初回の攻撃でバックネット裏からは落胆の声も
初回、先頭打者の1番・伊藤櫂人が引っ張った打球は高々と上がる。近江の名手、ショートの横田悟が後ろに下がりながら飛球を追う。グラブの先に当たって捕球できず、伊藤は三塁に達した。続く、谷口勇人が山田の直球をライト前へ弾き返して先制する。
前日の死球の影響か、疲労の蓄積か――山田に本来の球威がなかった。