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野球クロスロードBACK NUMBER
“投手分業制”で強豪に育てた監督の信念すら…近江・山田陽翔は“賛否とは別次元の男”「『エースで4番でキャプテン』だと自覚している」
posted2022/04/02 17:03
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
2回を投げ終えた近江のエース・山田陽翔(はると)は、ピッチングの潮時を悟っていた。
ベンチへ戻ると、背番号9の左腕・星野世那に「キャッチボールしといてくれ」と伝えた。直後の3回表。先頭バッターに死球を与えたところで、山田は意思を固める。
「このバッターで最後にしよう」
対峙するのは大会屈指の強打者であり、前日の準決勝で4安打1本塁打と暴れた、大阪桐蔭の3番・松尾汐恩だった。
絶対エースが沈んだ「594球目」
高めのボールを捉えられる。打球が弾丸ライナーでレフトスタンドに突き刺さった。
球速は123キロ。ストレートだった。
「真っすぐが『130キロも出ないだろう』ということはわかっていました。これ以上、チームに迷惑をかけられないので」
右手を回しながらジェスチャーで自ら交代を促し、山田がマウンドを降りた。
センバツ決勝戦。「一戦必勝で日本一を」と掲げ、初戦から近江のマウンドを守り続けてきた最速148キロを誇る絶対エースは、3回途中4失点でついに沈んだ。この試合45球。トータルで594球目のことだった。
前日の準決勝で左かかと付近に受けた死球が大きく響き、満身創痍の状態だったエースのピッチングを見届けた監督の多賀章仁は、自らの采配を悔いていた。
「本人の志願があっても、『後ろで投げるチャンスがあったら』くらいの判断をすべきでした。日本一になれるかどうかのところで、『行けるところまで』と山田を先発にしましたが、結果的には無理でした。回避すべきでした。今年の夏や彼の将来を考えた時に、今日先発させたのは間違いだと思いました」
多賀監督は“投手分業制”の代表的指導者だった
エース依存、球数制限、故障防止……。近年、高校野球が抱える問題としての答えならば、この起用は間違いだったのかもしれない。
だが、近江の決断としては、山田を先発させたことを一方的に責めることはできない。
そもそも多賀は、「先発完投型」ではなく「分業制」の投手起用を積極的に採用し実績を上げてきた、代表的な指導者である。