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甲子園の風BACK NUMBER
《甲子園が落胆するほどの圧勝》大阪桐蔭は、高校野球史上最強のヒールなのか「勝って当たり前と思ってもらうのは…」
text by
間淳Jun Aida
photograph byNanae Suzuki
posted2022/04/02 17:04
甲子園で圧倒的な強さを見せ、春の頂点に立った大阪桐蔭。続くターゲットは同校3度目の春夏連覇となる
大阪桐蔭がヒーローに厳しい現実を突きつけると、バックネット裏のスタンドからは落胆の声も漏れた。
その後も大阪桐蔭は攻撃の手を緩めなかった。2回は四球をきっかけにタイムリーで1点を追加する。そして、3回。死球で出塁した谷口を一塁に置いて、3番・松尾汐恩が打席に入る。
初球、山田の甘く入った130キロに満たない直球を弾丸ライナーでレフトポール際へ運んだ。仲間がいるベンチに向かって右手で何度もガッツポーズをつくってダイヤモンドを一周した。
山田を3回途中でKO。ヒーローを聖地の舞台から退場させた。
正捕手・松尾が塗り替えたかった苦い記憶
松尾には、この一戦で塗り替えたい記憶があった。昨夏の甲子園、大阪桐蔭は近江に4-6で逆転負けした。松尾は2年生で唯一スタメン出場。ホームランを打ってバットで貢献したが、捕手として4点差を守り切れなかった苦い思いは消えなかったのだ。
3回。松尾の成長を試す場面が訪れた。
5点を追う近江は先頭打者がチーム初ヒットで出塁すると、送りバントで1点を取りにくる。だが、大阪桐蔭バッテリーは近江の8番・西川朔太郎に対し、高めの直球でキャッチャーフライに打ち取った。
続く星野世那には送りバントを決められて2アウト二塁とされたものの、今大会好調の1番・津田基を外角の直球で見逃し三振に斬った。松尾が右手で派手なガッツポーズをつくったのは、無失点で切り抜けた重みを知っているからこそだった。
昨夏の近江戦、4点リードの3回に大阪桐蔭は1点を失った。無警戒で決められたスクイズの1点で流れが変わり、試合をひっくり返された。松尾はバントで揺さぶられることなく、苦い記憶を断ち切った。
「去年の夏に負けてから新チームがスタートしました。近江と決勝で戦うのは何かの縁、しっかりリベンジしようという思いがありました。去年からリード面は成長していると思っています」
西谷監督がベンチから動かずとも、傷を最小限に
この試合で唯一、失点した5回も松尾の存在が光った。
2アウト二塁から、主将のセカンド星子天真がエラー。近江の初得点に球場が沸く。大阪桐蔭は伝令を送って間を取ってもおかしくない場面だったが――西谷浩一監督はベンチから動かない。代わりに松尾が内野手を1人1人指さしながら、声をかけた。
打席には近江の津田。松尾が勝負球に選んでサインを出したのは、前の打席と同じ外角の直球。捕球したミット音から少し遅れて、松尾の声が甲子園に響く。
「シャー!」
1つのミスで崩れない。傷を最小限で食い止めたのだった。